黒い仔猫と白い仔猫
灰色の仔猫をニコニコ見ていた黒い仔猫も、ハッとしました。
「そうだよ! ぼくも、ちっとも苦しくないよ! 病気もお薬も注射もみんな船着き場に置いてきたんだ! ヤッホー!」
黒い仔猫は飛び上がって喜びました。黒い仔猫はとても重い病気に罹って、何年もの間入退院を繰り返していたのです。
「そうよ! あたしだって、虹の橋に来てから走ったり、うたったりしてた! みんなの顔だって、ちゃんと見えてるし! あたし、すごい!」
白い仔猫も地上での最後の一年間は、目も見えなくなり、歩くことさえままならなかったのです。
ふたりは嬉しさのあまり、木の
雨はすっかり止んで、枝の間からは穏やかな日差しが溢れていました。白い仔猫は水たまりに映った自分の姿を見て驚いてしまいました。
「うそ! あたし、仔猫になってる!」
黒い仔猫も白い仔猫の横から水たまりをのぞきこみ見ました。
真っ白で見るからに元気そうな仔猫のとなりには、つやつやした黒い毛並みの仔猫が映っています。
「あっ、ぼくも仔猫になってる!」
黒い仔猫も、水たまりの中の自分の姿にびっくりしてしまいました。
歌うたいの猫は笑いました。
「そうだよ。虹の橋では、楽しいとき、幸せなときの姿で暮らせるんだよ。地上の重荷は虹の橋には持ってこれないからね」
それを聞くと、白い仔猫は急に不安な顔になりました。
「だけど、仔猫になったあたしを見て、地上のみんなはあたしだとわかるのかしら」
「もちろんさ。涙の雨に架かった虹は、心と心をつなぐ虹だもの。一度架かれば、二度と消えない。だから、旅立ったときの姿じゃなくてもすぐにわかるさ。考えてもごらんよ。おうちの人たちだって、みんなが元気な姿の方が安心するに決まっているだろ」
黒い仔猫は面白そうに言いました。
「じゃあ、もし、おうちのおとうさんが、これからたくさん長生きして、おじいさんになってしまっても、ちゃんと、ぼくのおとうさんだってわかるね」
「うちのおかあさんも、おばあさんになってもわかるのね」
白い仔猫も、地上のおかあさんがおばあさんになった姿を想像して、クスクス笑いました。
灰色の仔猫も負けずに言います。
「じゃあ、もし、ぼくが、みんなのおうちの人たちに初めて会っても、わかるよね!」
「もちろん!」
歌うたいの猫と黒い仔猫と白い仔猫は、声をそろえて答えました。
それからみんなは、みんなの鈴の音に合わせて大きな声でうたいました。
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