灰色の猫

 静かだった雨が、再び激しく降り出します。

 

 黒い仔猫と白い仔猫は、大声で泣き出した灰色の仔猫にどう声をかけたらいいのかわかりません。ただ、オロオロするばかりです。

 ふたりは助けを求めるように、歌うたいの猫を見ました。


 歌うたいの猫がうたい始めました。でも激しい雨音の中に、歌声はかき消されてしまいます。黒い仔猫と白い仔猫は居ても立っても居られなくなって、いっしょに歌いだしました。三つの歌声に合わせ、三つの鈴の音も高くなっていきました。

 

 鈴の音が高くなるにつれ、あんなに激しかった雨音は少しづつ静かになり、歌声が雨の中に流れていきました。


 灰色の仔猫は耳をふさいだまま、泣きじゃくりながら言いました。

「ぼくは、声なんて聞きたくない。ぼくの鈴には声なんて入っていない。入っていない方がいい。入っていたって、絶対に聞きたくない! ぼくは、地上の声なんて、聞きたくないんだ!」


 黒い仔猫と白い仔猫はびっくりして、歌うのをやめました。雨の中に聞こえるのは、歌うたいの猫の歌声だけになりました。


 灰色の猫はこれまでつらかったことをいっぺんに吐き出すように叫びました。

「ぼく、ずっと、ひとりぼっちだった。虹の橋行きのお舟に乗るまで、ずっと、怖いことや苦しいことばっかりだった。ぼくを追い払ったり、怒鳴ったり、痛いこと怖いことをする声なんて、もう、絶対に聞きたくない!」



 灰色の仔猫は、地上ではずっと野良猫だったのです。

 黒い仔猫と白い仔猫のように、安心して眠れる暖かいお家が一度も地上では見付かリませんでした。

 ただ一日一日をいっしょうけんめい生きようとしただけなのに、どこにも居場所がなくて、いつだって邪魔にされ追い払われ、いじめられた挙句に虹の橋にやってきたのです。



 それを知ると黒い仔猫と白い仔猫も泣き出してしまいました。灰色の仔猫が地上から持ってきたものが、人々の怒鳴り声だなんてあまりにもつらすぎます。



 歌うたいの猫はうたい続けます。

 凛と優しく力強く、顔を上げてうたい続けます。



 黒い仔猫と白い仔猫も歌うたいの猫につられ、泣きながらまた歌い始めました。仔猫たちは歌いながら、灰色の猫の鈴から人々の怒鳴り声を消し、優しく温かい自分たちの鈴の音を分けてあげたいと心の底から願いました。



 雨音の中を流れるその歌声に包まれて、灰色の猫はいつしか眠っていました。



 歌うたいの猫とふたりの仔猫たちは灰色の猫を見守りながら、雨の中でうたい続けました。



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