R.I.P
たなか。
第1話
巷では最近安眠枕なるものが流行ってるらしい。自分のためだけに作られた、いつまでも寝ていられるそれ。
値段は1万2千円とお高いが快適な睡眠のためには惜しくない。
手に入れればきっと…至上の安らぎが…
「買おうかな」
「げっ、また安眠グッズ!?これ以上どう寝ようっていうのさ。」
「いや、言って私はそれほど寝てないよ?」
「どこがよ。今日もあんた仕事中ウトウトしてたでしょう…山本さん気づいてなかったから良かったけど、ほんとテーブルついてるのに寝こけるとかやめてよ?話つまんないって言ってるようなもんじゃん」
いや、あの話は睡眠欲がなくてもまぁまぁ眠くならない?株の話とか正味うちら分かんないし。
会社始めたら儲かっちゃって髪の毛の濃さと反比例してる、だなんておっさんの話誰が聞きたいよ。
なんて、言えませんが。
ホステスの待機場所は店の中ほどクーラーが効いてなくて、年中足出しノースリーブのご職業な私としては有難いことこの上ない。
どぎつい色のドレスと濃い化粧品の匂いは混ざってても、家で寝るよりは幾分かマシ。
25でOLをリストラされて、行くあてもなくこの店に来て2年。
来た頃は若いだの新人の可愛らしさがあるだのとちやほやされて来たけど27ともなるとこの業界ではもうおばさんに匹敵する。
なんとか固定で指名してくれる人は3人ほどいるけど、新規の指名なんてここ4ヶ月ほどない。
「やっぱり若い子がいいのかねー、男って。」
「なに自分の魅力のなさを年で誤魔化してんの。あんたが新規の指名貰えないのはそれ相応の努力が足りないから!
美沙さん今月2人も社長クラス捕まえたらしいよ?もっとがんばんなって。うちら20代のうちにお客さんつかせとかないと、ほんとに30超えたら稼げなくなるよ。」
「耳がいたいよー、アスカぁ」
「甘えんな!あんたは早くその無い胸行使して売り上げに貢献しな!」
化粧直しに余念がない明日香は、今から金融会社のお得意様とアフターらしい。
待機場のテーブルに頬杖をついて、鏡に映った綺麗な同い年を見つめる。
くそ…私にもFカップがあれば…。
「よし、こんなもんかな。茜も早く帰んなよ?残ってるの私たちだけだし。ボーイさん待ってくれてるんだから。」
「うん、今日のお客さんのメモ書き終えたら帰る。またね」
瞼の重くなってきた顔で答えれば、もぅと仕方なさげじゃあねと手をヒラヒラ部屋を出て行った。
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夜3時の繁華街は目にしみる。
9時から入った寝不足な私には、あのギラギラした灯がキツイ。
帰ったら化粧落として先ずお風呂かな。お客さんから貰ったりんご茶葉のパック試してみるのもアリかも。
「おっ?んー、ん?えーと。」
なんか通り過ぎたな。
「おねーさん!」
スタスタスタスタ
「ちょっとそこのおねーさん?ねぇ聞いてる?幽霊とかに興味ないかなぁ…!」
スタスタスタスタ
見てない見てない、私はあんなチャラチャラした髑髏のネックレスひっさげたサルエルパンツの男とか。ちょっと新規の客にしたいくらいイケメンだけど、霊の話で女の子ナンパするとかいうオカシイ奴には関わらないに越したことはない。
無視して早足で歩いているのに、ふんだんにつけたアクセサリーを鳴らしながら付きまとってくる。何だその足のリーチの長さは…!
…駅まで行っても離れなかったらどうしてやろうか。
「ねー、おねーさーん。悪いことじゃないんだって!
ねー。首から頭が逆に生えた血だらけのおねーさーん。」
ピタッ
今まで誰にも教えたことはない。
勤務中にウトウトしてしまう事はたまにあるけど、昼夜逆転生活が身体に合わないんだってことで済ましてる。
1番仲のいい明日香にだってそうやって誤魔化してるのに。
「…なんで、知って……!」
思わずばっと振り向いた。
「あ、やっぱり?
ねぇ、おねーさん。そのままにしとくと、やばいよ??」
アヤシイ男は真っ直ぐな目をして私を指差した。
R.I.P たなか。 @sono-tanakano
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