分け合った魂 馨×薫
夜も更けた頃くすぐったい感触に目が覚めた。元々眠りはそんなに深い方じゃない。
「かおり…?」
まだ半分以上眠りの中に意識を残したまま起こした相手を呼べば頬に冷えきった手が伸びてきて、その代わりに唇に暖かい物が触れる。寝起きの頭ではほとんど考えは読み取れないけど伝わる感情が黒に彩られている事に珍しいと内心で笑う。
「ん、んんっ…」
それを咎めるように舌が滑り込み絡め取られる。
普段淡白なこの相手が性急に求めてくるのは気分が良かった。
彼の体温がなければ眠れず存在そのものに依存しているのは自分ばかりだと思っていたけど違ったらしい。
「んう…んぁっ、くるし…ってばぁ」
口内を余すことなく蹂躙され溜まった唾液も流し込まれる。それでも離れない唇に肩を押して無理矢理逃れてみれば彼はどこか熱を宿した目で見下ろしてくる。そして、俺を抱き寄せていた手を滑らせてそのままズボンに手が掛かり脱がされる。
「余裕ないねぇ、馨。いいよ、付き合ってあげる。後で訳くらいは聞かせてよ?」
まだ馨の中は闇に飲まれたまま。仕方ないと首に腕を回して受け入れた。
自分を自由に出来るのはこの兄とあと一人だけ。
束縛も振り回される事も嫌いで、自分のペースを崩されるのは大嫌い。
それを許容出来るのはこの兄だからだ。欠けた魂は戻りたがって鳴く。
「ん…っああ!かお、りっ」
慣らしもせず押し込まれた熱にもこの体は慣れた物であっさりと馴染む。
それでも圧迫感はどうにもならなくてすがるように抱きつけばその手を取られまだ熱の戻らない指が絡んだ。
その後は灼熱に溶かされこの兄が望むまま求めさせられ、背中に、肩に赤い爪痕を刻んだ。
「ん…いた……」
「…飲めるか?」
「馨が飲ませてくれるならねぇ」
散々無理な体位で熱を受け止めた体の痛みで目を覚めた。隣からの声になんとか反対側を向けばそうした張本人がコップを差し出してくれていた。
いつも思うことだけどもう少し加減してくれれば世話を焼かずにすむのにねぇ。
口の端を吊り上げて笑って言えば少し眉間に皺を刻んで考えた後、温かい唇が蜂蜜入りの甘いミルクティーを運んでくれた。
「ん…もう一口、ちょうだい」
離れていく唇を舐めて強請れば今度こそ溜め息と共に眉間に皺を刻んで、それでも従ってくれる。黒く染まっていた感情が常と変わらない状態に戻っている事にクスリと笑みが溢れた。
「で?なんだったの。俺の寝顔に欲情でもしたぁ?」
「今更か?そんな訳ないだろう」
コップをベットの隣の棚に戻したのを確認してからだるい腕を伸ばして抱き付く。それにも嫌な顔をするけどそれこそ今更で拒みはしない。
元々スキンシップ過多な俺だから、いつもの事だし。
「お前が消える夢を視た、だけだ」
「あっはは、俺がそう簡単に居なくなる訳ないでしょ。だって俺だよ?」
傷を負っても治す事の出来る魔力がある。うっかり魂が体を離れても戻る術を知ってる。過去世では確かに死んだけどそんな記憶は彼にはないはずで…
「黒い羽を生やしたお前は…いや、あれは夢だ…」
黒い羽で思い出されるのはただ一つ。遥か昔記憶。
俺が俺であり馨でもあった頃。俺には過去世全ての記憶がある。しきたりが、役目が面倒で神に反逆し魔を取り込んでこの身を堕とした。自由気ままに遊び人を、魔の者を魅了していた頃の事。
最期討たれた俺は魂を分けられ今の俺と馨となった。分けられた魂は戻りたがって哭く。でもそれは俺だけが知っていれば良いこと。馨は知らなくても良い。
「夢だよ。俺はここに居るじゃない。愛するお兄様を残して消える訳ないでしょ」
いつもの笑みで抱きついて言えば嫌そうな顔をされる。それにまた笑ってキスすれば黙って受け入れてくれる。
魂を分けて起こった結果は神にとっては想定外のこと。弱まると予想された力は変わることなく互いの執着をもってむしろ強まったと言っても過言ではない。
俺を好きに出来るのも、殺すことを許すのも彼とあと一人のみ。
過去俺を殺した魂は今俺の傍にいる。それも手放してやるつもりはない。
今度こそ俺の勝ちだよ、ねぇお父様(神様)?
傍らの存在を抱き締めたままにまりと笑って天を仰いだ。
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