宝石を納める箱は 紅+夜光+隻斗
「夜光~、紅を知りませんか?」
本来ならば眠っているはずの深夜に扉を叩く音が静かな廊下に響いた。
「帰って来たような気がしたんですけど、報告もないんですよ」
「紅なら此処に居る。入って良いぞ」
訪れたのが隻斗だと分かった彼はキーボードを叩く手を止めないまま言葉だけで許可を出した。いや、そうする事しか出来なかった。
「では、失礼します。あぁ、そこに居ましたか。開けてもらえない訳ですね」
「ん…せきと…?」
「はい。紅、報告くらいは先にして下さいね。心配しますから」
声を発した紅に隻斗は笑顔で答えやんわりと窘めた。勿論、意味の分かっていない彼に首を傾げられたが
「紅、そろそろ風呂に行って来い。もう落ち着いただろう」
やっと体が自由になった夜光が頭を撫でて告げると小さく頷いて部屋を出て行った。それにいつものように夜光は苦笑して見送ったのだった。
「もう少し感情が芽生えてくれると良いんだがな」
「そうですね。昔よりは意思表示してくれるようになりましたけどね」
呟きに返されたのは、同じような苦笑めいた笑みと溜息。
隻斗は何も言葉を発する事もなく、ただ言われた事をこなす姿を知っていた。だからこその笑みだ。少しずつ、答えてくれるようになった紅には嬉しいが、紅の年頃を考えると些か不安を覚える。
「それにしても、すっかり夜光は紅の親の様ですね」
「あんな年の子を作った覚えはないぞ」
からかい混じりに告げれば、嫌そうに彼は顔をしかめたが隻斗の笑みは治まらなかった。
「だって、まさか膝に抱いてるなんて思いませんでしたよ。良いじゃないですか、親代わりみたいな物なんですから」
「親と言われると老けた様な気がしてな。あれは紅が横に座るからだ」
横とは則ち、仕事机の横。要は床なのだ。それを見兼ねての行動だと溜息と共に返された。
「夜光は紅には甘いですよね。本部の人達が見たらびっくりされますよ」
まるで子を宥めるように、守るように接する姿は確かに父親のようで、母親のように見える。普段の淡々と仕事の事を話す姿とは違う一面だ。
「あれが幼いからそう見えるんだろう」
「かもしれませんけどね。でも、僕には立派な親に見えますよ。勿論良い意味でね。紅には貴方みたいな人が必要なんでしょう」
宝石が傷付かないように劣化しないように好奇の目に晒されないように守る箱。
それと同じ様に、繊細で傷付き易いあの子が休める場所として無条件に迎えてくれる親の様な人がきっと必要なんだと隻斗は弟を見守る兄のように呟いた。
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