第一幕 魔人と魔女の大喧嘩

Episode1



「魔王様、やはり王妃様は避難させるべきかと」


重苦しい雰囲気の中初めに口を開いたのはアルバだった。あの事件から2日しか経っていないというのに、その体はピンピンしていた。もっとも、それもあの奇跡があったからと言っても過言ではないが。


「しかし、逃がそうにもどこに逃がすのか...王族派の者であっても、なかなか人間を受け入れてくれる者など...」


ルドルフがもっともな事を言う。いくら王妃とはいえ、人間を匿おうと思う者など皆無だろう。たださえ憎き人間を、リスクを伴って匿う理由など無い。

あの事件に対してはロイヤルキャットの復讐として幕を閉めたが、いくら情報統制を行ったといえ、過去の事もある魔王に嫌疑の目を向けるものは少なくなかった。そんな中アルバが考えたのが、綾田の一時退避であった。しかし、それも泡沫の夢とし終わってしまうのだろうか。


「魔王様、私1人だけ思い浮かぶ方が...」


「メル、そんなやつ居るのか?」


今まで黙って話を聞いていたメルメムが口を開く。あの事件で1度側近の役を解かれるが、ルドルフが間違いだったもう一度側近の命を与えたのだ。そんな彼女が帰ってきて一言目に有益な情報を与えようとしている。流石は有能な側近だ。そうルドルフは考えた。しかし、次の一言でそれは覆された。


「魔人のステラ様の元へ...」


「却下。で、預けるにしてもどこに預けるかだが...」


「魔王様...メルメムが泣いています。1度話だけでも聞いてみるべきかと...」


「いや、しかしステラって...流石にあれはまずいだろ...」


ルドルフは難色を示す。過去に何があったかは分からないが、あまり気乗りはしてないようだ。即答で返すほどの疑念がステラと呼ばれた者にはあるようだ。


「ですが元人間である彼ならば理解は得られるかと」


さっきまで泣いていたメルメムが立ち直る。というよりも、どうやらさっきまでのは嘘泣きだったようだ。あまりに反応が無かったので嘘泣きをやめたようだった。


「いや、あいつの場合人間とか以前に面白がって受けるだろうな」


「ならなおのこと好都合ではありませんか、魔王様」


「いや、そうは言っても...なぁアルバ」


「まぁ、確かに...ですが、それしか選択肢は残されておりません。王妃様の出産まで時間はありません。それまでに何としても王室派の基盤を固めなければ」


「そう、だな」


ルドルフが重苦しい口を開く。それだけルドルフ達は切羽詰った状況にあるのだろう。頼りたくない人間を頼らなくてはいけない状況。それ程までにもあの事件は禍根を残し過ぎたようだ。


「よし、決定だ。明日綾汰をステラの元へと預ける。アルバ、ステラの元へと手紙を届けさせよ。そして道中なにも無いよう騎士団の精鋭に守らせろ」


アルバはそう言われると、綺麗な敬礼と共に部屋を後にした。


「ああ見えてステラ様は世話焼きなので大丈夫ですよ」


メルメムがそう言うものの不安が拭えないルドルフであったが、こうなってしまった以上はメルメムを信頼する他ないと言った表情だった。


「それと、逆賊エルメの処罰についてですが...」


「分かってる。ワシもそろそろ覚悟を決めねばな」


その決意の篭った言葉の裏には悲しみが込められていた。

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