真実






「何となく言いたいことは分かるが…話してくれ」


「正直僕はまだあまり現状を理解出来てないです。なのであまり深くも分からないですが、ただ言えるのは僕は魔王様好意は抱いていません。」


「だろうな」


 少し間が開いた後、そう言う。その顔に本当の事を述べてる様にしか見えず、どうやら冗談で言ったわけでは無いようだ。


「本当の事を話さねばならぬな」


 そう言うと魔王は少し間を開けて話し始める。


「お前から求めきたというのは嘘だ。婚姻の儀を進めるために嘘をついていた」


 それが嘘なのはまぁ分かるけどなぜそこまで早急に婚姻を進める必要があったのか。そこまでして僕と結婚したかったのか?


「それは何故ですか?」


「すまない。初めから説明しなければ分からないな。お前は最初魔王城の庭で倒れてたんだ。それもボロボロの姿でな。」


 新しい真実が魔王の口から語られていく。記憶が無い僕からすればそれを補完できる。魔王の言う事がどこまで本当かは分からないが聞いてみる価値はある。


「そしてお前の脈拍は徐々に弱まっていった。ワシは魔法が使えん。回復魔法を施そうにも他の部下に人間が居ることなど伝えられるはずもない。そこでワシは考えたんだ。王族の種には子供を育てるためのエネルギーが大量に蓄えられている。もしかしたらそのエネルギーで母体も回復するんじゃないかと」


「それってつまり…」


「あぁ」


「レイプ?」


「違う!」


 いやいや、ほとんどレイプ見たいなものでしょ。まぁ助けてもらったから何も言えないけど。


「でもなんで僕を助けようと?それに別に助けて婚姻を進める必要なんて無いじゃないですか。」


 そう言うと魔王は少し困った顔をして口を開く。


「お前は今の人間と魔族の状況を知らないのか?今、人間と魔族は休戦しているものの、その両者の恨みは未だ根深い。もし、人間にワシの種が入ったなんてわかった日にはお前は殺されるだろう。そしてまた戦争へと突入する」


「それを僕を正妻にする事で守るって事ですか?」


「あぁ、その通りだ」


 あぁ、頭が痛くなってきた。


「じゃあ僕を助けた理由はなんですか?」


 少しの間沈黙が流れる。話すのに躊躇している魔王が沈黙を破った。


「昔好きになった人間がいてな。ワシもまだ若く過ちを犯してしまった。同じ過ちを繰り返さないために今回の行動を起こしてしまった。好きだった人間に似ていた撮りゆう不純な理由でこんな事に巻き込んでしまってすまないと思う。本当に嫌だったら逃げても構わない」


「自分勝手ですね」


 そう言うと魔王は悲しそうな顔をする。ただ、僕からしたら自分勝手としか感じ取れない。勝手に好きだった人に似ていたからという理由だけで妊娠までさせられて、結婚まださせられたのだ。


「すまない」


 今にも泣き出してしまいそうな顔になる。その顔は体格や見た目には似合わず、少し可笑しくなってきた。


「本当に自分勝手ですよ。逃げたらいいなんて。そうしたらお腹の子供はどうするんですか?」


「堕胎していい」


 パチンと部屋に乾いた音が響く。気づけば僕は魔王の頬へと平手打ちをしていた。魔王の頬は真っ赤になり、こちらを見上げていた。


「命を簡単に考えないで下さい。僕の子供です。それにあなたの子供でもあるんですよ?」


「すまない」


 とうとうなにも言えなくなってしまった魔王。普通であればこんな事をすれば殺されてもおかしくないのに反省の色を伺わせる魔王は真面目なんだなと思う。でなければこんな行動を起こさないだろう。


「ねぇ」


「??」


「正直あなたの事を好きになれるも分からないですし、僕みたいな人間がここに居ていいかも分からないけど…1度預かった以上この命は無駄にしたくありません」


「あ、あぁ」


「ちゃんと責任とってね。ルドルフ。」


 僕は屈託の無い笑みを向けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る