第12話 暗闇

「…茜。おい、大丈夫か?」


おかしい。目を開けた筈なのに、薄暗かった。目を閉じている時と視界にそう変化がない。声が聞こえるので、かろうじて体をさすっているのが悠太だとわかる。


「あ…う…えと、悠太? 」

「おお、やっと気がついたか。本当に死んだかと思ったぜ」


暗闇の中、悠太の声だけが聞こえる。

私は体を起こして、周りの様子を伺おうと目を凝らしてみる。しかし、周りは真っ暗で何も見えなかった。ただ、広い空間のようで、悠太の声は反響しなかったし、何より見渡す限りに地平線が見えた。

地平線といっても、山や海などの風景が見えるのでは無く、地平線と思われる場所がぼうっと白く明るく光っている。


左手で地面を触ってみた。土の感触というより、硬いコンクリートに近い感触がする。ただ、コンクリートの様に冷んやりとした感触では無く、むしろ逆に何と無く暖かい。


「悠太、ここはどこ? 」

「さあ、わからん。俺もさっきまで気を失っていて、起きてみたらこの真っ暗な空間だった。どれだけの間、気を失っているのもかわからない」


真っ暗なので、悠太の表情は分からなかった。


「茜、あの明るい場所に行ってみよう」


悠太は指差す代わりに、私の頭に手を添えて地平線の方に向けた。


「うん」


返事をするなり悠太は茜の手を掴む。

私は一瞬戸惑い、慌て、動揺する。


「ん、どした? 」


悠太は見えないながらも、私の変化を感じたみたいだった。


「い、いや…まあ、あの、急に手をとか…その…」

「なんだ?はっきり言わないとわからん」

「だから…もう。い、いきなり悠太が手を繋ぐから! 」


私は搾り出すように言った。悠太は驚いたのか暫く無言でいたが、急にカラカラと笑い出した。


「この暗闇の中、手を繋がずにいたら途端に離れ離れになるだろう。それでも良いのか? 」

「あ、そっか。…うんごめん」


私は顔全体が熱くなるのを感じて俯く。暗闇なので大丈夫、バレない。


「また、真っ赤になってたりしてな」


悠太がまるで見えているかのように言った。


「何で、赤くなるのよ。ただ、手を繋いでるだけじゃ無い。うん、そうよ」


私がゆっくりと立ち上がるのを待って、悠太は手を引っ張った。

二人は遠くに見える地平線目指して歩き始めた。

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