第11話 トンネル効果
六時間目がやっと終わった。
私は手を頭の上で合わせて「うーん」と伸びをした。苦手な英語の授業が終わると疲労がたまる。背筋を伸ばすと気持ちよかった。仰け反った姿勢のまま視線を校庭脇の通路に移すと、すでに気の早い生徒がすでに帰路についていた。
いつもなら、運動部の生徒が部活用具を準備したり、白線を引いたりしているのだが、今日は年に一度の教師の集まりだか勉強会だかで速やかに帰宅せよとの指示が出ており、校庭には部活の生徒の姿は無かった。
そういえば、今日はそんな日だったなと思っていた時、頭上で合わせている手を誰かが掴かむ。
「へっ? 」
突然手を掴まれて、驚いて真上を見上る。薄ら笑いの悠太と目が合った。
「茜帰ろうぜ」
突然の悠太に手を握られて、たちまちにして私の頬は熱くなっていく。
拉致された宇宙人のように、手を握られたまま私は何もいえず、恐らく頬と耳を真っ赤にしてしばらくジタバタしていたと思う。かわいそうになってきたのか、悠太がそっと手を離すと、私は軽くバランスを崩し両腕を大きく振り回しやっとのことでバランスを取り戻し、カエルのように椅子にしがみついた。
「お前、一人で何を遊んでるんだ? 」
真剣な顔をして悠太が問いかける。
私はまだまだ熱いままの頬を隠すように俯き加減のまま、膨れっ面をして悠太にささやかな抵抗をする。
しばらくの沈黙があり、その後悠太がたまらず笑い出した
「ぷははははは。悪いわりい、茜帰るぞ」
悠太は机の横に引っ掛けてある私の鞄を持ち上げると、目の前に置いた。
「早く教科書つめろ。もうみんな帰っちゃったぞ」
「えっ、あ、うん」
私は周りを見回し、教室に残っているのが悠太と自分の二人だけなのを確認すると、慌てて机の中の教科書やノートを鞄に詰め込みはじめた。
(悠太と二人だけの教室か…)
悠太と自分しか教室にいないのを再確認してしまい、妙に意識してしまう。悠太の方をまともに見れない。ただ、悠太の存在を近くに感じ、かすかに聞こえる、感じる息遣いを感じていた。
最後に筆入れを取り出し鞄に入れようとした時、私のの手から筆入れがするりと滑って床めがけて落ちていく。
あ、いけない拾わなきゃ。とっさに、私は落ちていく筆入れに手を伸ばす。
スローモーション再生のようにゆっくり床めがけて落ちていく筆入れ。あと少し、あと少しで届く。体がグラリと傾いた。
「茜、危ない! 」
悠太の声が聞こえた気がした。同時に悠太の手が伸びてきて私を抱きかかえた。しっかりと抱きとめてくれたその大きな手はしっかりと私を包み込むと、わたしを引き寄せ、さらにわたしの頭をかばうように包み込む。
…そして、私たちは暗闇をどこまでも落ちていった。
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