第8話 認識

自分の部屋。基調色は水色。壁、シーツ、ぬいぐるみに至るまで水色で統一されている。もちろん、パジャマも例外ではなく、水色のパジャマを着てドライヤーで髪の毛を乾かしていた。

お風呂上がりで、鏡に映るあどけなさが残る顔の頬がほのかに紅い。


(わたしは他の並行世界に紛れ込んでしまったのだろうか)


昼の最上先生の言葉が頭の中でぐるぐる回る。


「しかも、その無数にある並行世界同士で情報のやり取りをしているらしいんだ。つまり並行世界間での情報のやり取りをしている… 」


目の前の鏡を見る。映っているのはわたしだ。違和感はない。部屋にある物の位置も自分の部屋そのものであった。

例えば、並行世界があるとしよう。情報のやり取りをも行われているとしよう。問題なのは、この世界がわたしの知っている世界と少し違うと言う事だ。

昨日、朝食を食べていた…。突然お昼過ぎの教室に記憶が飛んだ。さらに、教室でのみんなの反応。パパのお酒と翌日のママの対応。


「わたし、パンは好きじゃ無いのに」


少しずつズレてると思われる世界。なんなのだろうこの違和感は。


「並行世界ってのは、無数にあって一つ一つはほんの少しずつ異なる世界だ… 」


再び最上先生の言葉が頭をよぎる。

まさか…ね。でも、今の自分の置かれている状況はそれに当てはまる。恐怖…なのだろうか、心臓の鼓動がドクドクと早まるのが分かる。

ドライヤーのスイッチを切った。それまで五月蝿かった部屋の中に静寂が戻る。微かに一階からテレビの音が聞こえる。


それにしても、悠太。そうだ、あいつが一番変だ。

私の知ってる悠太は寡黙だった。ほとんど喋らない。たまに、 襟がまがっているだの、糸くずが付いているだの。そう言う事でしか会話をしなかった。なのに、なのに昨日からのあいつは…?いきなり目の前に立って、今日のお前は感じが違うと言ってきたり。今日はお昼ご飯一緒に食べようって…。しかも、いつも一緒に食べているって…わたしは、今日初めて食べたのに。


…このおかしな現象の可能性は二つある。一つは、わたしが最上先生の言っていた、他の並行世界に紛れ込んだ可能性。もう一つは、わたしが記憶喪失みたいなものになった可能性。


「並行世界なんて、どこかの映画か小説みたいな話あるわけ…ない。たぶん。となれば、わたしがおかしくなっちゃったのかも…」


自分が映る鏡をみる。やはりわたしがそこに映っている。自分自身がおかしくなったとは思えなかった。


今日はもう寝よう。ベットに入ると目を閉じ寝ようと努力した。結局、眠りについたのは日付が変わる頃だった。

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