第3話 普通じゃない

次の日。

やっぱり普通じゃなかった。


「あら、茜おはよう。今日は早いのね。いつもなら、起こさなきゃ起きないのに」


ママはテーブルにサラダを並べている。


(は?いつも朝ちゃんと起きてたし。昨日もちゃんと起きた…もしかして…)


テーブルの上にはトースト、サラダ、ハムエッグ…えっ!えっ!


「ママ!私がパン好きじゃないのを知ってて…」


そこまで言って口を噤んだ。ママが不思議そうな顔をして私を見ている。


「何言ってるの?パンじゃないと朝食食べないじゃない。冗談言ってないで、さっさと食べちゃってね」


ママに促され、椅子に座りフォークを手に取る。


(まず、サラダから。サラダなら好きだし。食べれるし)


フォークをトマトに突き刺し、口に運ぶ。続いてキュウリ、キャベツをパクパクと。


「あら、今日は嫌いなサラダを先に食べるのね」


サラダを食べながら伏し目がちに視線を母の方にむけると、不思議そうにそれでいて少し嬉しそうに微笑むママがいた。

私が視線をパンに落として、どう食べてやろうか思案している時、足に何かが纏わり付いた。


(なになになになにな…何っ!)


口にサラダを頬張りながら机の下を覗き込む。

そこには一匹の黒い子猫がいた。


「あら、ジルちゃんおはよう。相変わらず、茜ちゃんの事がお気に入りね」


ジルと呼ばれた黒猫は、私の顔が見えると「にゃーお」と鳴いた後に顔を洗い出した。


「マ、ママ!猫がいる!」


顔を上げてサラダを慌てて飲み込む。


「何言ってるの?ジルはあなたが拾って来たんじゃない」


ママは呆れた顔で、暫く私を見ていたが食器置き場から猫用の食器を取り出すと、机の下を覗き込み


「ジルにゃーん。ご飯あげましょうねーこっちよ」


母の後ろをジルが付いていく。


「うーん。猫なんて拾って来たかなぁ」


私は首をかしげた。




やっぱり昨日から何かがおかしい。そう思いながら、茜はいつもの通学路を歩く。


(たしか、昨日はパパもちょっと違ってたのよね。お酒とか飲んで晩酌しだすし。パパってお酒飲めなかったはずなのに… )


街並みはいつも通り。家の形、遠くの山の形全部知っている形だ。一緒に歩く同じ高校に向かう人たちも見慣れた面子である。


(だけど… )


少しずつ、本当に少しだけずれてる感じ。なんだろうこれは。

一生懸命思案していると、誰かに肩を叩かれた。驚いて振り向くと、そこには幼馴染の悠太がいて二度驚いた。


「ゆ…悠太?な、な、何?」

「ん?何慌ててんだ?おまえ」

「だ、だって、突然肩を叩かれて振り返ったら悠太が居るから… 」

「そんなのいつもの事じゃん。お前こそ何だその髪型は?」

「えっ…」


慌てて髪に手をやる。大丈夫乱れてない。いつも通りのポニテだ。


「ツインテはやめたんか?見た時、誰が分からなかったぞ」

「えっ、ツインテ?何それ? 」

「お前いつも言ってたやないか。私は宇宙一ツインテが似合うんだって。忘れたんか? 」

「……。 」


私は何も言えなかった。そもそも、ツインテールなんてした事がない。宇宙一って言ってた?何それ。


「おい、茜」


幼馴染の悠太。中学校で身長は追い抜かれて今は見上げるほどだ。幼い面影を残しつつ時々悠太がする、凛とした眼差しを見るのが好きだった。

今、凛とした眼差しが私を見つめている。頰が熱くなるのを感じつつ、私は悠太を見上げた。


「お前、昨日からなんか雰囲気変わったな。まるで、茜じゃ無いみたいだ」


悠太はじっと私を見つめていた。

目の前が暗くなるのを感じた。

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