第5話 アリス
俺とさやは手をつなぎ、町内を歩く。
外を歩いている人は少なかった。
みんなデスゲームでそれどころではないのだろう。
特に行きたい場所がなかった。いや、ただ散歩がてら他の人の様子も見ておきたかったが、酷いものだ。家族を失った人は泣き、恋人を失った人は絶望し、世界は今、絶望の闇に覆われようとしていた。
さやの家に戻る。外にいても、気分を害するものだったからだ。
俺は昼間にも関わらず、寝る準備をする。
「あきら?もう寝るの?」
「ああ、いち早くこの異世界の謎に迫りたいからな」
「なら、私も寝る!」
「おいおい、無理するなよ」
「無理なんかしてないわよ」
「そっか…」
「じゃあおやすみのキスね」
俺とさやの唇が重なる。そして離れる。
俺はこの子を失いたくない。俺の最愛の女性だ。俺たちは眠りにつくと、異世界へと飛ばされる。ここからは失敗は許されない。命がけのゲームのせかいだ。
目がさめる。そこは教会の前だった。
「そっか、俺。ここでセーブしたんだっけな」
「さや、さやはどこだ!?」
マップを開く。するとガナルガンドの全域が表示され、人のアイコンの吹き出しの部分に名前が表示されている。一通りマップを確認するがさやの名前はなかった。1億人以上のプレイヤーがいる世界だ。まともに探しても見つかりゃしない。なので名前検索を利用することにした。名前を入力することで検索した人がどこにいるかを知ることができる。
・・・風見さや・・・
さやの名前を検索するとザナルガンド外のフィールドに表示された。
「この方角だと西か!?」
俺は急いでさやの方へと向かった。
☆☆☆
ここはどこだろう…。
さやは目を開ける。
確か夢の中にいるんだっけ。いや、夢の中ではなく正しくは異世界だった。
「オマエ、ダレダ?」
「え?」
さやの前に大きなガマガエルのような生き物が立っている。こいつもモンスターなのだろうか?
「オマエ、オイシソウダナ、ソウダ、タベルトシヨウ」
「逃げなきゃ!?」
さやは一目散にガナルガンドの方向へと向かう。
ガマガエルもさやと同じくらいの速さでドドドンと音を立てて走る。
走っているうちにスタミナが切れかけて、息が上がる。
「もう、ダメ…」
助けて!あきら!心の中で強く叫んだ。
ガマガエルは長い舌でさやを巻きつける。
「いや…」
「イタダキマース」
「ごめんね、あきら…」
もう無理と諦めた瞬間だった。
「さやーー!!!」
声の主はあきらだった。
あきらは装備したヒノキの棒でガマガエルを何度も叩きつける。
舌で捕らえられてたさやは解放され、ガマガエルはひるむ。
「ふぅ、ひのきのぼうが活躍したのはゲーム至上初めてだぜ…。
「あきらー!」
俺はさやを抱きしめる。
「大丈夫でよかったよ。危機一髪だったな」
「私怖かった。すごく怖かった」
「よかったよかった」
俺はさやの頭を撫でる。
「といっても…状況が悪いってのは変わらないがな…」
「え?」
ガマガエルはひのきのぼうのダメージごときではビクともせず、こちらに再び襲い掛かる。
「さや、走れるか?」
「もう、無理…」
「仕方がないな」
俺は、うさやをお姫様抱っこして走り出す。
ガマガエルはしつこく俺たちを追いかける!
「このやろう!しつこいぞ!」
後、ザナルガンドまでもう少しのところでスタミナが持たなくなった。
はぁ…はぁ…。さやを地面に下ろす。もう限界だ。さすがに女の子を抱えて走るのには無理があったか…。
「さや、お前だけでも逃げろ!」
「嫌よ、私はあきらのそばにいる」
「とっととこいけー!」
「何よこの分からずや!あなたの言うことなんて聞かないんだから」
「オマエタチ、二人ともタベテヤルゾ…」
「伏せて!」
「え!?」
「早く伏せて」
「さや!伏せろ!」
俺はさやの顔を掴み伏せさせる。
「スペル・ボルガノン!」
巨大な炎の球体が空中に浮かび、それがガマガエルに降り注ぐ。
「アツイーグワー」
ガマガエルは消滅した。テキストウィンドウに経験値150とお金が60ゴールド入る。
俺はレベル1から3へとなった。ヒールを覚えた。そしてステータスが上昇する。
「あら、あなた。この前もあったわね?」
「あ、あの時助けてくれた青髪の女か」
「私の名前はアリスよ。あなたたちよくガマガエルを相手にして無事だったわね。それにひのきのぼうだしね。プププ」
アリスは腹を抱えて笑い出す。
「あの…ちょっといいですか?あなたは何者ですか?」
「自己紹介ね、私はアリス、この異世界の住人よ」
「住人ってことは…」
「あなたたちは現実世界、地球に住んでる人たちでしょ。私たちは異次元の狭間に住む住人よ。ここはドリームワールド。人の思いや想像、願望を元に作られた超異次元空間なの」
ドリームワールド、それがこの世界の名前。人々の想いが結晶となり、それが集結して出来上がった世界。
「ここじゃ敵に見つかるとマズイし、私の家に来てくれる?フレンド登録するから」
「フレンド登録?」
「そうよ、フレンド登録すれば、マップを開いた時、フレンドをタッチするだけで、その人の情報も分かるし、メールのやりとりができるのよ」
「へーすごいな〜」
「あんたは彼女さんともフレンド登録しなさいよ」
「分かってるよ、ほら、さや。立てよ」
「ごめん、腰が抜けて立てないの…」
「たく、仕方がないな…」
「ほら、ここにつかまれよ」
「うん」
さやは俺の方に捕まり、俺はさやを抱っこする。
「いいわね、あなたたち仲よさそうで」
「アリスは可愛いから、彼氏の1人や二人できるだろ」
「そう簡単な話じゃないのよね…とにかく私の家に来てね」
「スペル・ムーブメント」
アリスはなどの呪文を唱えると、一瞬で空へと上がり、一瞬でザナルガンドの方へと飛んでいった。
あれがいわゆるルーラってやつか。異世界は魔物さえいなければ便利な世界だなと思う。
さやをおぶって、ガナルガンドへと着き「もういいわ」とさやが言う。
「さや、まずはここでセーブをしてくれ」
「セーブね分かったわ」
「右下のところな」
「本当だ、メニューって書いてある」
「で、そこのセーブの場所をタッチするんだ」
「これね、、、セーブ完了♪」
「俺もここでセーブしておくか」
セーブしないとランダムで飛ばされるからな…。街でセーブした人は魔物狩りで失敗しない限り、死にはしないが、セーブ機能を知らない人の多くは死んでしまったのかもしれない。
「アリスさんの家に行くんだよね」
「そうだったな、急ぐとするか」
「浮気はダメだからね」
「俺はお前のおっぱいしか興味がない」
ボカ!
さやに蹴られた。蹴られた回数は20回を超えてるだろう。
俺たちはようやくアリスの家に着いた。
「お邪魔します」
「あ、来てくれたのね」
「さあさあ、お茶でもいかが?」と尋ねられ、回答をする前にお茶を差し出された。
「アリスはここのこと詳しいよね。聞きたいんだ。どうして現実世界と異世界が繋がったんだ?」
「それはね…」
話そうとするアリスの表情が曇る。
「私が魔法の実験をした際に失敗して、本来なら現実世界と異世界を繋ぐ魔法だったはずなのに、なぜか人の夢と異世界をつなぐ結果になったの…」
「要するにアリスの魔法が原因だったんだな?」
「でも、それだけじゃないと思うの…私の魔法は確かに失敗したかもしれない。でもね、夢と異世界をつなぐのは大きな魔力が必要なのよ」
「ということは別の奴の仕業かもしれないのか?」
「あくまで、推測だけど、この世界の魔王デルタノア。奴が怪しいと思う」
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