第3話ガナルガンド

「おやすみなさい、あきら」

「おやすみ」


俺とさやは向かい合って1つのベットで横になっている。夢世界でもドキドキしたが、現実の世界ではドキドキのレベルが違う。

さやの匂い、甘い吐息、ピンクのなめらかな唇。生で感じるとはこのことだ。


「あきら、キスして…」

「・・・ああ」


その柔らかな笑顔に触れて、心が暖かくなればいい。


「んん」


俺は軽く、かつソフトにさやにキスをする。

桃の味だ。恋人同士のキスってこんな味なんだな…。

夢と現実はいい意味で違う。

ムードと体温。夢の中ならどんな自分にでもなれる。だけど、他の人を自由に動かすことはできないし、なによりそこにお互いの意志はない。


今日は疲れたのかな?たなり眠いや…。さやの家に恋人として来たわけだったから、それは常に緊張感があったし、風呂でもめあって体力使った。だから疲れがたまって眠気がくるのも早いんだろう。


俺は静かに眠りにつく…。


8月21日

午後9時00分

それが人類が初めて夢から異世界へと飛ばされた日であった。


俺は目を覚ます。


「・・・ここは?」


俺はさやの家にいたはずだ。どうしてこんなところに?

見渡す限り、草原のフィールドだ。北の方角に大きな街が見られる。

しかももう夏だというのに桜の木が生い茂っている。

なぜ、こんなところにいるのだろうか?もしかして桜の魔法によって夢世界に飛ばされたのか?冷静に考えてみる。

仮に夢世界なら、誰の夢だろうか…。


「ありえない」


そうだ、俺はそもそも桜の魔法を使えるだけのエネルギーをさやの夢世界に飛んだ時に使い果たしたはずだ。もしかしてきょうすけの仕業だろうか?きょうすけも桜の魔法の恩恵を受けていて、まだ数枚は桜の花びらを所有してたはずだ。

考えていてもラチがない。俺は街に進むことにした。


色鮮やかな河川の中、しわすの群れが静かに泳いでいる。

その河川沿いに俺は歩いていた。


ガサガサ!


草むらが揺れる音がする。


「なんだろう…」


そこから、スライムが現れる。


「なんだこいつは!?」


スライム。青いブルーベリーの色をしたゼリーの生命体であり、その小さな体で簡単な魔術は使える。また、体当たり攻撃はダメージを与えるだけでなく、襲った相手を自身のスライムのぬめぬめした物質が粘着することがある。

スライムなんて○○○○クエストのようなゲームで存在するが、実際本物を見ると、ゲームのスライムよりも半透明だ。


スライムがこちらを向いて、俺に体当たりを仕掛けてきた。

俺はすかさず身をかわす。

叩かなければならないのか!?だが何もしなけば、俺がやられるだけだ。

俺はスライムの背後をとり、蹴りを入れる。


「うわー、なんだこれ!?」


足になんかスライムの一部が粘着した。


「くそっ!身動きが取れない」


炎の玉が空に上がる。スライムが出したものだろうか?

非現実的すぎる…。


「あぶない!伏せて!」


急に女の子が聞こえた。俺は体を横にし、言われた通り、伏せる。


「スペル・ファイアー」


俺は顔を上げてみると、スライムは女の子が出した炎で焼け散った。

スライムが消滅…!?なんなんだこの世界は?

しかも驚くことはそれだけでない。俺の前にテキストウィンドウが表示され、そこには経験値2、ゴールド1と表示されていた。


「ありがとう、助けてくれて…」

「礼ならいいわ、あなたはとにかくザナルガンドへ向かいなさい。そこでセーブするのよ、私が敵を引きつけておくから、早く行って!」


「来たわね、魔物ども!来るなら来い!私が相手になるわ!」

「すまない…」


俺はあの街、ザナルガンドへと足を運ぶ。スライムを蹴った時についた粘液でダッシュはできないが、なんとか街・ガナルガンドにたどり着く。


ガナルガンド。もともとは1万人くらいの小さな街だったが、現実世界から夢世界に紛れ込んだ人を含めると、人口は約10億人くらいだと言われている。

全世界の約6分の1がここに迷い込んでるというわけだ。人の増加に合わせて、ザナルガンドの領地も広がる。この街は生きている。

ザナルガンドでは現実と違い、幻想上の生き物のペガサスやドラゴンを連れて歩いている人もいる。ペガサスに乗って戦う人はペガサスナイト、また、ドラゴンを連れて戦う人をドラゴンナイトと呼ばれた。


あきらは敵を振り切り街につくと、息を荒くして、その場に座り込んだ。


「あー!疲れた〜」


あきらは袖で汗を拭く。どれくらい走っただろうか。10分くらいだったかな。

俺は顔を上げる。ここは!ユニバーサルスタジオなのか!?と言いたいくらい、人があふれる活気ある街並みだった。


「よお、にいちゃん、ひのきのぼう買わないかい?今ならたった50ゴールドだぞ」

ひのきのぼう…ねぇ。そんなの最初の街の宝箱を漁れば、拾えるようなアイテムだぞ…。

「いえ、結構です」

「もったいない事するねぇ〜。これでも格安なのに」


嘘つけ。そんなわけないだろう。

俺はさっさと街の中を見て回る。


宿屋、教会、武器屋、ギルド、酒屋、カジノ、他にはたくさんの家だ。

ここはRPGの世界なのか?人が多すぎてNPCが誰かは分からない。


「あ、じんとりかじゃないか!」

「あきらか、こんなところで会えるとは奇遇だな」

「あきらさん、私たち一体どこに来てしまったのでしょう?」


ジンとりかは俺と同じ高校の同級生で、ジンは最初はりかのストーカーでいつも、しつこく告白していたのだが、やがて付き合うようになり、2人は恋仲へと発展した。

未だに、二人は手を繋いだことがなく、ストーカーのくせに奥手なやつだと思う。

りかは…BL好きということが、同級生で旅行に行った時やった王様ゲームで判明した。


「おい、じんとりか。なんかお前ら光ってないか?」

「何?っか本当だ」

「きゃあ、何ですかこれ?」


体が光りに包まれて…そして、この世界から2人は姿を消した。


消えた…なぜ? 光りに包まれて消えたのはじんとりかだけじゃなかった。

あちこちで光に包まれた人たちが姿を消していく。


「何が起きてるんだ…」


セーブをしなさい…。ふと彼女の言葉を思い出す。ゲームのRPGにおいて、その地点から仮に死んでもリセットすれば何回でもやり直せるというシステムだ。セーブをする場所といえば…教会だ!

俺はすぐにザナルガンドの西部に位置する教会へと向かう。


「神父さん、セーブを、、、セーブをしたいんですけど」

「生きとし生けるものは全てワシのしもべ♪教会に何のようですかな?」

「・・・」


おいー!!!この爺さんとんでもなく危ない人なんだけど!何だよワシのしもべって、こんなところでセーブしたら、間違いなく奴隷にされる!


俺は教会を出た。くそ〜、一体どうすれば…「ピロりん♪」

LINEの通知音みたいな音がする。どこの音だろうか?

すると足元に「メニュー」と書かれたウィンドがあるのに気がついた。

メニューを指でタッチする。

「強さ」 「魔法」「セーブ」「アイテム」「特技」「マップ」「お金」「ジョブ」

ここでセーブできるんかい!

8つの項目を見る限り、これは間違いなくRPGの世界だ。いや、殆どの人類を主人公とした、超究極RPGだ。

セーブは終わった。よく分からないが、これなら死んでも大丈夫なはず。

他の欄もチェックしてみる。


[強さ] HP17 こうげき8 防御6 魔力3 素早さ8 努力値0

レベル1でこのステータスだ。まあ、弱いのも当たり前か…。

次に魔法はだが何一つ覚えていない。

アイテムウィンドに触れようとしたその時だった。

俺の体が光りに包まれていく。


「起きて…起きってば…」


その声はさやか?








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