第20話 ミモザの本気 ~バカンス編 初日~

「……」

 天気は快晴、青い空にエメラルドグリーンの海。そして、白い砂浜に熱い太陽。

 王族のプライベート・ビーチは、テンション上げ上げの環境だったが……。

「み、水着……。恐るべし」

 先に言っておく。私は森育ち。危険な植物も多いので、夏でも薄地の長袖が基本装備。

 そんな環境下で育った私からしたら、これは素っ裸も同然だった……。こんなの布だ。ただの黒い布だこれ!!

「なに恥ずかしがってるのよ。いやー、ワンピースにしようかとも思ったんだけど、あなたのスタイル見たらこれだって。うん、間違ってなかった!!」

 悦に浸るマリーなんてもう、私よりもさらに布成分が減っているし、恥ずかしくないのかな……。

「これ、もはや服じゃないわよ……」

 とかなんとか抗弁しても無駄だった。

 先に色々な道具を設置に行った男チームの方へと。ズリズリ引きずられて行く。こら、調子に乗って笑いながら、後ろから思い切り押すな。仲間たち!!

「はーい、お待たせ~!!」

 マリーがマルスを初めとした護衛込みの男どもに声をかける。って、こっちパンツだけじゃん!! いかん、目眩が……。

「あっ、来た。って!?」

 マルスだけではない。男どもが私を見た瞬間、そのまま硬直した。

「えっ?」

「フフフ、美人エルフと水着のコンボは、さすがに効いたか。なにせ、この顔だもんね。反則だわ」

 私の頬を人差し指でグリグリしながら、マリーが楽しそうに言う。

 あの、私の顔になにか付いています?

「こ、こら、お前たち。今すぐ穴掘って埋まれ!!」

 お前も一生埋まってろ。マルス!!

「馬鹿だねぇ、男どもは。さて、さっそく海へ突撃!!」

「のぇぇぇ!?」

 相変わらずの謎の万力パワーでマリーに引っ張られ、私は海へザブーンっと。

 おぅ、結構冷たい!!

 こうして、初体験づくしの初日は過ぎて行くのだった。

「唸れ、伝説のビッグ・ウェーブ!!」

「変な魔法使うなぁ。溺れる!!」


 その夜、私はそっと別荘を抜け出し、一人でビーチに来ていた。もちろん、水着ではない。ダボダボのゆったりとした服装だ。やはり、この方が落ち着く。

「初めてだけど、波の音っていうのもいいわねぇ」

 元々お一人様が好きである。ここは、王族以外入れないので、治安上の問題もない。ほけーっとするには、最高の場所だった。

「さてと……マリー。いるんでしょ?」

 私は闇に向かって問いかけた。

「さすが、バレていたか……」

 フッと人の気配が現れ、マリーが隣に立った。

「そりゃ分かるわよ。エルフだもん」

 私は小さく苦笑した。無論、この暗さではマリーには見えないだろう。

「マルスはどうしてる?」

 海で遊んで来たら、いつの間にかいなくなっていたのだが……。

「寝室で寝てる。鼻血吹いて高熱出して、そのまま倒れて気絶しちゃったから」

 アホか、アイツは……。

「なるほど。まあ、いいわ……。もう一つバレている事。あなたは、本来こんな性格じゃない。私に隠している事がある。大きな何かをね」

 瞬間、空気が固まった。

「……なんで、そう思うの?」

 低く押し殺した声が聞こえた。

「簡単よ。私とマルスの間に、不自然に干渉してくる。自然なように上手くやっているけど、最初からなにか違和感があったんだ。それに、気がついていないだろうけど、あなたは時々もの凄く思い詰めた表情をする。ほんの一瞬、瞬きするくらいの間だけどね。もちろん、何を隠しているか言えなんて野暮な事は言わないけど、あまり無理し過ぎないでね。体を壊さないように。私が言いたいのは、それだけよ」

 まあ、これがここに来た主な目的だ。ここなら誰も聞いていない。頃合いを見て、言いたい事は言っておく。それが私のポリシーである。

 沈黙は長かった。あるいは、一瞬だったのかもしれないが、私には長く感じた。

波の音がいいBGMである。

「あーあ……上手を取ったつもりだったんだけどな」

 グズッっと鼻をすする音が聞こえ、マリーの声が返ってきた。

「甘いわよ。私だって、ダテに歳を食ってないんだから」

 小さく笑い、私は転がっていた石ころを海に向かってぶん投げた。

「美人聡明……ズルいよ」

「どうだかね」

 前も言ったが、私は少々夜目が利く。背後をちらっと見ると、目をゴシゴシこすっているマリーの姿が見えた。やれやれ……。

「さて、あの鼻血昏倒野郎の様子でも見てきますか」

 私は軽くマリーの頭を撫でてやると、ゆっくりと別荘に戻ったのだった。


「ったく、そんなに私の水着姿って強烈だったのかなぁ」

 寝室に行くと、マルスがうなされていた。

「ううう、水着エルフの大軍がぁ。ああ、埋めないでぇ……」

 ……なんじゃ、そりゃ。

「フッ、坊やにはまだ早かったかな? なーんてね」

 私は杖を取ると、先端をマルスの額に当て、回復魔法を使った。これで5回目。これでも、多少はマシになったのだ。全く、マリーといいこの坊主といい、本当に手間が掛かる。

 やれやれとベッドに腰掛けた時、扉をノックする音が聞こえた。

「はい」

 応答すると、そっと扉が開いた。

「あれ、マリー。どうした?」

 ビーチで別れて以来だったのだが、目が真っ赤を通り越えて腫れている。

「まあ、いいから入って」

 マリーは無言で入ってきた。そっと扉を閉めると、いきなり私に猛烈ダッシュで抱きついてきた。おぅ、熱いねぇ。って、茶化せる感じではないか。

「はいはい、いい子いい子……」

 全く、私としたことが、変に刺激しちゃったかな。

「……諸事情で口が裂けても言えないの。でも、これだけは断言しておく。私はミモザを全力で守るよ」

「その前に自分を守りなさいって。壊れても直さないからね」

 はぁ、また面倒くさい事になりそうね。

「もう遅いから休みなさい。明日は綺麗に忘れる事。引っ張るの好きじゃないから……」

 私はマリーを引っぺがし、体をクルッと扉の方に向け、両肩をポンと叩いた。

「うん、おやすみ!!」

 すると、何を思ったか素早く振り向くと、私が反応するより早く、頬に軽く唇を当てて去っていった。まっ、女の子同盟締結ってところか。

「さすがスーパー侍女。素早いわね」

 さて、私も寝よう。相変わらずうなされている、うちの馬鹿旦那の隣に横になった。

「ううう、水着……」

「うるさい!!」

 ゴキ!!

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