ep.42 関わりたくない人間って、
あと一週間で、クリスマスイブ。そんな日の朝。
冬の日の朝って、どうしてこんなに憂鬱なのだろう。――いやな夢を見たってのもあるけれど、8割方は寒さのせいかな。
それでも、日常は続きますので。――あたしは今日も、セミロングの髪の毛を緩く巻き、モテ系大学生っぽいワンピースに身を包み、薄付きファンデにブラウンアイライナー、艶のある、ストロベリーカラーのリップで武装する。
「いってきます」
まだグースカ寝ている母と弟に口の動きだけでそう伝え、あたしは家を出る。
今日は、今年最後のゼミ。そのあと、忘年会。冬はやっぱり嫌いだ。――人と関わる行事が多すぎる。
輪講なんて、やめたらいいのに。だって、誰も聞いてないし、発表者だってやる気ないじゃん。
忘年会だってそう。幹事はあたし、めっちゃやる気ない。ほとんどのゼミ生は、「仕方なく」「お付き合いで」参加している感じがすごい。このあいだ、同期のゼミ長が言ってるのを聞いた。――ぶっちゃけ、教授だとか、老害系の先輩だとか、偉い人とかと食べるタダ飯より、一人で食べる450円の牛丼の方が断然美味しいって。教授だって、学生の分まで費用を出すの、普通に負担でしょうに。そうなると、「えっ、これ誰得?」ってなっちゃうのよね。
「それでは、お時間になりましたので、開会させていただきます。まず始めに、斎藤先生に乾杯の挨拶を――」
「はい、桜庭さん、ありがとう。みなさん、一年間本当にお疲れ様。今年はうちのゼミから3名が卒業します。高橋くん、ゼミ長お疲れ様。東くん、書記やHP担当、いつもありがとう。桜庭さん。――あなたのゼミ発表は、いつも楽しみでした。そして、桜庭さんは今年、次席で卒業することになりました。本当におめでとう」
「桜庭、マジ?おめでとう」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
教授は、いい人だ。学生ひとりひとりを、ちゃんと見てくれている。過剰に気を遣う必要もなく、割とフランクな人。――
そう、あたしの周りにはいい人がいっぱいいる。
ゼミ長の高橋くんは、毒舌だけど、しっかりもの。本当は負けず嫌いなのに、あたしが次席で卒業することを聞いたときは、全力でおめでとうをいってくれた。
東くんは、あたしの代わりに、ゼミ関係のいろんな仕事を引き受けてくれた。「俺、こういうの好きだから」って、そんなわけないじゃん。――そう、あたしはコール・アーソナでの一件以来、こういう面倒事は一切引き受けないようにしていた。ゼミでも、バイトでも、他のどんなことでも。
コール・アーソナで出会った人たちだって、みんながみんな悪い訳じゃなかった。元カレはクソだったけど。
ひよりちゃんは、誰がどう見ても天使だし、引きこもりがちだったあたしを、大学最後の合宿に連れ出してくれたのは、彼女だ。
志歩は、かなり酷い仕打ちをしたあたしにも、「サイコーのパートナーだった」と言ってくれた。そして、長い年月を経た今、再び友だちになろうとしてくれている。
そして、春樹くん。出会ったばかりの頃は生意気で、どうしようもないやつだなって思った。だけど本当は、ちょっと素直になれないだけで、いろんな事に熱心で、心配性で、真っ直ぐで――
「あんまり長くなってもいけませんね。みなさん、グラスをお手に。――乾杯」
グラスの音が、目の前で弾けると同時に気づいてしまった。
――あたし、一番ダメなやつじゃん、って。
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