ep.41 内定者懇談会
内定先の大きな会議室、豪華なオードブル。比較的年配のおじさんたちがいっぱい。たぶん、各部の部長とか、そういう感じの管理職。――顔、覚えられない。
「君は――桜庭さん、だね。大学では何を専攻していたんだっけ」
「経済です。国際経済学のゼミに所属していて……」
「桜庭さんとしては、あなたの専攻や特技を生かした仕事がしたい?それとも、そういうの関係なく、幅広くいろいろチャレンジしてみたいの?」
「ぜひ、いろいろなお仕事をさせていただきたいと思っております。その中で自分の経験を生かせることがあれば生かし、勉強不足なことがあれば……」
しんどー。あたし、もう内定したんだよね。なんでこんな面接擬きを受けているのか。
趣旨は分かっている。――今年度の新人の品定め、そんなところだろう。もしかしたら、いろんな部署での適正を見られているのかもしれない。目の前に料理を出されているにもかかわらず、質問攻めで食べる暇がない。ってか、緊張でちょっと食欲ない。
「おっ、久々! 桜庭さん」
「……近藤さん、ご無沙汰しております」
管理職の方々からの質問攻めが途切れた隙に声をかけてくれたのは、うちの大学のOB、近藤さん。就職活動の時に、お世話になった。
「いやー、本当によかった、桜庭さんみたいな優秀な子が来てくれて……」
「そんな、恐縮です。こちらこそ本当にお世話になりました、内定したのも近藤さんのお陰です」
そんなことないよ、と言いながら近藤さんは柔らかく笑った。爽やか系イケメン。たしか独身だったはず――
あ、いつの間にか結婚指環してら。
内定者懇談会が終わり、スマホの電源を入れると、溜まっていた通知が次々と表示される。不在着信。この番号は、バイト先からのもの。
録音メッセージを再生する。
「桜庭さん、ご無沙汰しております。12月24日、店内非常に混雑すると思われます。そこでお願いなのですが、その日の18時から21時の間、どうかシフトに入っていただけませんでしょうか。お返事お待ちしております」
カフェのマスターからの、直々のお願い。……仕方ない、明日返事するか。暇だし。あたしは留守録メッセージを停止した。
それにしてもSNSの通知が多すぎる。Twi○○er、Insta○○○m、Faceb○○k、LI○E……全部アンインストールしよっかな。
――その中に、春樹くんからのSNSメッセージも含まれる。
「優里乃さん、お元気ですか? 心配なので……」
通知だけでは、メッセージの途中までしか確認できない。画面を暗くしようとした時に、再びメッセージが届く。
「返信は求めませんが、心配なので、既読マークだけでもつけてください」
あたしの、何を心配しているの?
あんたは、あたしの、何?
舐めないでほしい、まだ子どもの癖に。まだ何にも経験していない、学生の癖に。――あたしも学生なんだけどさ。
「あいつと関わってた過去のあたしの方がよっぽど心配だわ」
そう呟いて、あたしは画面を暗くし、スマホを鞄に放り込んだ。
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