第3楽章
ep.38 選ばない選択肢
「そういえば桜庭さん。おそらく、卒業式で表彰されるよ。――次席の」
「あ、ありがとうございまーす。……えっ、次席、ですか」
「はい」
教授からのお知らせに面食らう。次席……? そうだったっけ、あたしより上の成績の人、いたんだ。
「大川ゼミの斉木くんが、桜庭さんと同率一位のGPAだったんだけど、彼は卒論提出するからね。――おそらく、彼が首席だ」
「……なるほど」
そっか、あたしは卒論を書かなくていいゼミを選んだから。――書いてもいいけど、書かないことを選んだから。
「あたしには勿体ない賞です。ありがとうございます」
「勿体ない? ……本当にそう思っているのですか」
教授がさも不思議そうに問う。
「あなたが首席になるものだとばかり思っていましたよ、桜庭さん」
「まあ、首席だろうと次席だろうと、無事卒業することが大事ですよー」
一位と二位は、違う。
今になって、選ばなかったものが、突き付けられる。
院進もそう、卒論もそう。学部も、そう。……他に何かあるかな。
楽な方に流れるのは簡単で、その選択をしなかった者を笑うのも、気持ちいい。ああ、コイツ要領悪いなって。その時に、ちゃんと考えないといけないのだ。
自分が、何を選ばなかったのか。
何を選ばないという選択肢を取ったのか。
ゼミが終わると、あたしはソッコーで表参道に向かう。今日は志歩との約束があった。
「優里乃、遅い!」
「ごめん、ゼミが長引いて」
あの後、本当に彼女から連絡があったのだ。――ぶっちゃけ、めちゃくちゃ心が疲れていたし、人と会いたくないモード発令中なんだけど、折角だし……
思えば、彼女と二人で遊びに行ったことがなかった。
「お洒落なカフェで、甘いものが食べたい」
かなり乙女な彼女の希望を聞き、あたしたちは表参道キラキラストリートを歩いている。
「……もう、こんな季節」
「こんなって?」
「LEDで巻かれてんじゃん、木が」
12月。――クリスマス。志歩の指摘で、初めて意識した。
「……ああ、マジで目がつぶれそう!」
「えっ、何? 優里乃大丈夫? 疲れ目? ドライアイ?」
「あ、いや……キラキラに目があてられないっつーか」
「……何を言ってるの」
「忘れて」
やっぱり、モグラはモグラなのだ。明るい場所には出られない。なーにが「キラキラキャンパスライフごっこ」だ。
カフェで志歩はパンケーキを注文し、あたしはパフェを注文した。
「優里乃は、この二年くらいで何か新しい恋とかあったの?」
志歩は、クールな見た目とは裏腹に、甘いものと恋バナが好きな女の子だった。――そういうギャップすら、魅力的。
「……こないだ、バイト先の先輩に告白されたかな」
何もない、と答えるのも負けた気がして、わざわざ掘り返したくない話題を提供する。
「え! マジで? 返事は?」
「断っちゃった~、しかも、バイト辞めちゃった~」
「悲しすぎる……ほんと、優里乃って話題性に富んでるよね」
「絶対誉め言葉じゃないよね?」
「いや、だってさ……先輩の告白断ったからバイト先辞めるって、極端すぎやしない?」
そう言いながら、笑いをこらえきれずにいる。何だか、あたしもつられて笑ってしまう。――確かに、あたしの選択はいつだって極端なのかもしれない。
スマホのバイブレーションの音が鳴る。こっそり画面を確認すると、春樹くんからのメッセージが届いていた。
「優里乃さん、今度またランチしませんか?」
メッセージには続きがありそうだったけど、無視。
――あたしは、彼からの連絡をすべて無視し続けている。
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