ep.33 怒号、制止、呼び止め、衝撃、そしてまた怒号。
それにしても、二人の関係は謎に包まれている。
二人は、知り合い。それは間違いない。有華ちゃんは、飯倉さんが毎週、勉強を教えてくれていると言っていた。それだけ聞くと、なんだか仲が良さそうに思えるけれど、有華ちゃんを見た飯倉さんは、あからさまに機嫌が悪くなった。有華ちゃんの片思い状態なのは一目瞭然なんだけど、じゃあ、どうして飯倉さんはその関係を続けているのだろう。
ぐだぐだと考え続けていると、ふいにドアが開き、ベルがなった。営業スマイルを貼り付け、あたしは客を迎える。
「いらっしゃいませ」
「1名、禁煙で」
見覚えのあり過ぎる、透き通るような黒髪の美少女。強い意志を感じる、大きな目……
あああ! どいつもこいつも、色恋沙汰をバイト先に持ってくんじゃねえ!
「田口くんは今日シフトじゃないんで――」
「あ、知ってます」
後輩くんの彼女さんは、真顔のままあたしの台詞を制止する。
「奴がシフトじゃない時を狙って来てますんで、どうかお気になさらず」
し、失礼しました。あたしは彼女を席へ案内する。
「……元々、ここのコーヒーが好きで。奴が働き初めたせいで、来にくくなってしまって困ってるんです」
そう言って微笑む姿は女神のようで、ちょっと毒舌なところすら愛しいという後輩くんの気持ちが分からなくもない、と感じた。
ブラックコーヒーをひとつ注文すると、彼女はバッグから本を取り出して読み始めた。……圧倒的美女でも、本なんて読むんだ。偏見の塊みたいな感想を抱きつつ、あたしは遠目に彼女の姿を観察していた。――不思議と、癒される。
暖色のライトに照らされた、落ち着いたカフェの店内。黒髪の美女が本を読みながら、コーヒーをすする。――一枚の、絵みたいだ。
……だけど、ちょっと変だ。
さっきから、たまに目が合うんですけど?
マスターさんよりシフトの終了を告げられる。あたしは制服を着替えて、どこかほっとした気持ちで店を出た。――
まさか、
「あんたのせいよ!」
の怒号と、
「おい、やめろよ」
の制止と、
「すみません、あなたが桜庭さんですよね……?」
の呼び止めと、
バチン、
という衝撃と、
「優里乃さんに何しやがるんじゃボケ!」
の怒号に、ほぼ同時に襲われるとは思っていなかったから。
……カオス。
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