ep.29 男はオトコを信用できない
春樹くんの手前、まあまあイケメンな発言をしてしまったけれど、具体的にどうすればいいのかよく分からない。「ヤンキー 更正させる」なんてキーワードでグ◯り始めてるし、もう手詰まり。早い。
「そもそも、有華ちゃんって本当に『荒れてる』のかな?」
いやいや、前提って大事よ。だって、髪の毛を明るく染めたって人柄が変わるわけではないし(現にあたしは髪の毛をハニーブラウンに染めたところで、相変わらず保守派の女子大生であることに変わりはなかった)、夜遅くまで帰ってこないのは、外でバイトか勉強をしてるのかもしれない。修一くんは、あまり有華ちゃんのことを知らないようだったから、そんなことだってあり得る、1%くらいは。――どんなことでも、片方の話だけを耳にして判断するのは、危険ってもんだ。
そうなると、有華ちゃんご本人に話を聞くしかなくなるのですが。
……ああ、もう、どうしろと。バイト先のキッチンを掃除している途中、頭を抱えた瞬間、隣でガシャン!と大きな音がなった。
「ごめんなさい!」
あー、バイト先の後輩くんね、時々ドジを働くんだけど、ついにコーヒーカップを割ったっぽい。
「手を切らないように!」
案の定素手で破片を拾おうとしていた彼を、制止する。ドジにドジを重ねるタイプだということも、一年近く一緒に働いていると分かってくる。
「……さっきは、ありがとうございました」
夜11時、ようやくバイト先から解放されて最寄り駅に向かう途中、後輩くんにお礼を言われた。
「……彼女とケンカしたとか?」
「ケンカしたわけではないですけど……なんでですか」
「あんたの元気がないときって、大体彼女絡みでしょ」
後輩くんが肩をすくめる。――そういうのも、お見通しだっつーの。
「何があったの? ……って訊いてみたけど、別に嫌だったら全然答えなくていい質問だからね、これ」
一歩間違えるとセクハラ/パワハラになっちゃうからね。一介のアルバイターにはパワーもないのに、パワハラ。笑っちゃう。
「……この間、彼女が知らない男性と歩いているのを見かけたんです」
「浮気じゃん」
「やめてくださいよ!」
あらあら、本気で怒っちゃった。
「冷静になろ、田口くん。今、あなたの隣を歩いているのは?」
「優里乃さんです」
「あたしの性別は?」
「……女性」
「ね?」
全部を全部縛ってちゃ、キリがない。
「でも、優里乃さんは僕を襲わないじゃないですか」
「あなたの彼女さんも、誰も襲わないでしょうよ……」
「もちろん、彼女を信用していない訳じゃないんです。――むしろ、男性の方がどう思っているのか、心配なんです」
で、出たー! 男は男を信用できないってやつ。……でもそれって、自分が自分を信用できないから、なんてオチがついてなかったっけか? 自分だったら、相手に彼氏がいようがいまいが、平気で手を出す……みたいな。
「だって、彼女の近くに居ると、クラクラしてきて、人の形を保てなくなるし」
……あー、そういうことですか。末長くお幸せに。くそっ、お前の女を、皆が皆可愛いと感じると思うなよ!
だから、言わなかったんだ。――一緒に歩いていた男性は、きっとOB訪問の相手だよ、と。何もやましいことは無さそうだよ、と。
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