ep.28 温かい手のひら返し

 有華ちゃんたちの問題に首を突っ込まないと決めたはずなのに、あたしはどうしてこんなことを。


「春樹くんってさ、高校時代荒れてたんでしょ? それって、どうして?」

「……ド直球ですね」


 まあまあ黒歴史なんで、ほどほどにしてくださいよ、と春樹くんは口を尖らせた。


「俺の場合は、幼なじみの親友がワルい方へ進んでしまって、流されるまま、低い方へ、楽な方へ、……って、本当に情けないですね……引くほど情けない……消えたい……」

「んー、でも中高生ってさ、ぶっちゃけ親の言うことなんかよりも、友だちの言うことを信じるじゃん? あたしもそうだったし」

「フォローありがとうです」


 あまりこの辺の話、突っつかない方が良いのかも。


「……もしかして、グレた知り合いを更正させようとしてます?」

「……天才?」

「そろそろ分かりますよ! 優里乃さんはいっつもそう、俺がサークル辞めるときも、バイト三昧でてんやわんやになっているときも、貧血でぶっ倒れた時も、一々首を突っ込む」

「……ごめん」

「むしろ俺は良いんですよ、感謝してるんですよ。でも、優里乃さんはどうです? 俺を助けたことで、何かメリットは得られました? 今だって、俺にこうやって勉強を教えている時間、優里乃さんの『最後の青春』が削られてる訳で、そう思うと、なんだかすごく悪いことをしている気分になります」

「……余計なお世話だったら、言ってね?」

「絶対に、余計なんかじゃないです。俺としてはすごく為になっているから。――でも、いつか優里乃さんから打ち切られてしまっても文句は言えない、と覚悟しています。……あ、なんか喋りすぎましたね、すみません。俺が言いたかったのは、そのグレた知り合いを更正させようとするの、やめた方がいいっていうことです」

「……あたしの時間の無駄遣いになるから?」

「それもありますし、やっぱり、危ない。どんなレベルでグレているのかも知りませんけど、喧嘩に巻き込まれたり、怪我させられたりしたら……後悔してもしきれません」


 ……なんか、優しい。じーんとくる。


「春樹くん、ご心配、ありがとう。――でもね、少なくとも『最後の青春の無駄遣い』って表現だけは承服致しかねる」


 だって、青春をどう使おうが、あたしの勝手じゃん。


「春樹くんにしていることは、あたしにとって無駄じゃない。春樹くんには想像つかないかもしれないけど、確実にあたしにもメリットは、ある」


 イケメン観賞ができるから、なんて本人には死んでも言えないけどねー!


「だって、あたしは『損がキライ』だから。――そして、有華ちゃんのことに関しても、ちゃんとあたしにメリットはあるんだ」


 小学生だったあの頃、あたしと有華ちゃんは、確かに「友だち」だったから。――一晩考えるうちに、「友だち」を取り返したいと思ってしまったから。


「……そんなに言うなら止めませんけど」


 春樹くんは、呆れたように口を開いた。


「もし、その『有華ちゃん』とかいう子と直接会って話すとか、何かしらのトラブルに巻き込まれそうだとか、そういうことがあったら、すぐに優里乃さんの現在地を俺に送ってください。――約束できますか」

「え、なにそれ過保護じゃない? ……なんか束縛の激しい彼氏みたいで萎えるー」

「……それだけ、グレたやつらと付き合うっていうのは危険と隣り合わせだってことですよ」


 意外とやべえことになりつつあるっぽい。

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