オンステでやることじゃない、とおもうんです(2)
◆
最悪だ。
絶望感が身体中を侵していくのが分かる。
ゲストに迷惑はかけられない。大前提だ。今日はサンクスデーじゃない。なのに。
なんであの子は、パートナーズ像前で、ゲストと写真を撮っているのでしょう……?
「やばいっすよね、あれ」
剛くんが呟く。曖昧に頷くしか出来なかった。JK? JD? 女子グループに囲まれて、かわいいー! なんてはしゃがれながら、めっちゃ写真撮られまくってる。グリーティングじゃねぇか。
「フェイスだとでも思ってんすかね、あのゲスト」
「いや……たぶん単にコスプレした小さいゲストとか思ってるんだと思うよ……」
だとしたら周りに親がいないことを疑問に思ってほしい。
「って、やば。時間やばいよね、剛くん、行っていいよ。こっちはなんとかする」
「大丈夫っすか?」
「まぁ、なんとか」
「ヒラさん、子ども苦手じゃないっすか」
うっさいな。
「大丈夫だよ。トレーナー信用してくれ。いいから、なんかあったら無線飛ばすから」
「うぃっす」
ちょっと心配そうな顔のまま、剛くんが去っていく。まぁ実際、苦手だけどもさ。剛くんをあんまり巻き込んでばかりもいられないし。いやいまさらだけども。
無線で、剛くんのいく現場のリーダーに連絡する。こっちの用事で引き留めてしまっていたから、今そっちにいった。よろしく。と伝える。フォローしとかないと、現場入り遅れるとなにかと面倒だしね。
その後、ふぅと息を吐いた。仕方ない。腹、くくるしかない。
ゆっくり、アリスと写真を撮っているグループに寄っていく。
「こんにちは! いいお写真撮れてますかー?」
「はーい、撮ってまーす!」
キャストスマイルに、ゲストはにっこり答えてくれる。アリスはきょとんとしたまま、こちらを見上げて、あら? と呟いた。
「おねえさん、あの時の」
オーケイ、ちょっと黙ってね。
「こんにちは、リトル・アリス。素敵なお洋服ね」
「ありがとう、おねえさん」
しゃがんで視線を合わせて、なるべく『迷子ゲスト』対応らしく対応する。
それから、女子グループのひとりに声をかけた。
「この子もお連れ様ですか?」
「あ、ちがいますー。なんかー、かわいくてー」
なんかー、じゃないです……。
「あら。じゃあ、親御さんとかも知りませんか?」
「そういえば知らないですー。迷子ー?」
そういえばそうだねー、と女子グループが話し出す。わたしは心底驚いた顔をして見せて、
「そうだったんですね。じゃあちょっと、親御さん一緒に探してきます」
と、アリスの手を取って頭を下げた。
「あ、そっかー。キャストさんお願いしますー」
「ばいばいねー、アリスちゃーん」
女子大生が手を振ってくれるのに手を振り返しながら、そそくさとその場を去る。
――よし、脱出成功!
「しつれいね、わたし、迷子じゃないわ」
と、アリスはぷんすかしたあと、あら? とひとりで首を傾げてた。
「迷子。迷子なのかしら? そもそも迷子ってどういうことかしら」
哲学とか、いらないです……。
そっと無線のマイクをいじった。この無線はパークワイド無線ではなく、部署内無線なので、ややラフでも大丈夫なものだ。
「平澤です。現在迷子対応中。このまま迷子センター向かいます。以上」
マキちゃんか剛くんが聞いていればいいだけなので、どうぞ、と続けることなく一方的に告げるだけ告げて切る。つもりだったのだが、交信が入った。
「牧野です。平澤、その後でもいいから、そのままバックこれるかしら、どうぞ」
――でも、か。でも、いい、ということは、そうでなくてもいい、ということだ。
つまり、アリスを連れて裏にこい、ということ。
「了解です。向かいます。どうぞ」
「よろしく。牧野以上」
無線通話が終わる。よし。絶対連れていく。絶対この手を離さない。
「ねえおねえさん」
「なんでしょう」
「ここ、どこかしら。わたし、ウサギを探しているのよ」
「……ウサギですか」
「そうよ! チョッキを着て、時計を持っているふしぎなウサギなの!」
話しながら、迷子センターへ向かう。迷子センターの脇からすぐバックステージに入れる場所がある。マキちゃんのあの言い分だと、おそらくそこで待っているだろうと思うのだが。
「いや、ウサギはいいんですけど、昨日のもう一人のおねえさん知らないですかね」
「ああ、あのおねえさんなら」
アリスが何かを言いかけたのと、迷子センター脇からバックステージへ足を踏み入れかけたのはほぼ同時だった。
そして、目の前をそれが横切るのも。
――チョッキを着て、時計を持った、二足歩行のウサギ。
「ああ、忙しい忙しい!」
「あ、ウサギさん!」
ちょ……っと待てい。
ウサギも来てるのー!?
「だ、だめえーっ!」
慌ててウサギに飛びついた。抑え込む。無理。無理。いくらなんでも、誤魔化しきれないこんな生き物!
「平澤!?」
声を聞いたのだろう。マキちゃんがバックステージから飛び出してきて、それから、うげ、と声を上げるのが聞こえた。
「マキちゃん、ごめんなさい、これ!」
言って、ウサギをぶん投げる!
「ちょっ」
無茶な行動に、でもマキちゃんはなんとかウサギを捕まえてくれた。
「バックへ! ここ、トゥモロー!」
「そっ、そうね!」
迷子センターは、近未来を模したエリア、トゥモローランドにある。いくらなんでも、近未来にチョッキを着たウサギはない。ショー性もテーマ性もダダ崩れになってしまう。
……いや、ファンタジーだからいいとか、そういうもんでもないとは思うんだけどさ……
ウサギを抱いたマキちゃんがバックへすぐに下がる。その後を追いかけて、わたしもアリスの手を引いてバックへと入った。
一気に現実味溢れるバックステージで、ウサギはマキちゃんの腕の中でバタバタしていた。
「なんだいなんだいおまいらはっ! オイラァ、忙しいんだぃ!」
「ええい、ちょっとバタバタしないでちょうだいっ! 鍵は!? 持ってるのでしょ!?」
「鍵って、昨日のちいさいトランプカードのこと?」
――と、聞いたのはアリスだった。
「そ、そう! 誰が今持ってるの!? そんで、花ちゃんは!?」
アリスとウサギがこっちに来ている、ということは、こちらに今鍵があるはずだ。だとすれば、花ちゃんも来ているかもしれない。来ていないにしても、鍵さえあればこっちから迎えにだって行ける!
「んっと、たぶん女王様が」
……じょおうさま。だと。
「あのおねえさんも一緒だと思うわ」
「……あの。なんにん、きてるの……?」
ぞっとして、震える声で尋ねてみる。アリスは首を傾げて、ちいさく「たくさん」と答えた。
「どーやって!? あんなちっさいものに、同時に触れられる人数なんて限られてますよねっ!?」
「それはだって」
アリスがポケットをごそごそと探った。
「これ飲んだら、みんな小さくなっちゃったから、問題なかったわ」
アリスが取り出した小瓶には、こう書いてあった。
『わたしを飲んで』
――ありましたね、そういえば、そんなアイテム。
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