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 それから六年も経ったと思うと自分も年を取ったと感じる。そりゃ三十路にもなる訳だ。

「記念日に当店を選んでいただいて光栄です」

「いやいや、マスターにはいつもお世話になっているし」

「そんなこと」

「ありますよ」

 にっこりと丸い顔で竹下さんが微笑む。人の良さが滲み出ているような微笑みだ。新我さんも竹下さんのそういう所が良かったのかもしれない。

「それに、僕がどうしてもここに来たかったから」

「え? そうなんですか?」

 確かにデートの時にも頻繁に来てくれていたし、たまに竹下さんだけで来店されることもあった。記念日には必ずって訳ではなかったようには思うけれど・・・。

「僕はこのお店が、マスターが好きなんですよ」

 お、自意識過剰じゃなかった? やった。

「私と、私のお店が、ですか?」

「はい。それと、新我さんとこうやってお酒を飲むことも、一緒にデートすることも」

 竹下さんは視線を俺から新我さんに移した。

「新我さんとは何をしても楽しい、何もしなくても傍に居てくれるだけで気持ちが安らぐんだ。楽しいことも、辛いことも、新我さんとなら歩んで行けると思う」

 言いながらすっ、と胸元に手を入れ小さな箱を出した。

「永遠に僕と一緒に居てください。結婚しよう」

「っは・・・はい。よろし、く・・・おねがいします」

 涙が頬を滑り落ちた新我さんがしっかりと小さな箱ごと竹下さんの手を握った。

 六年前とは全く違う二人がそこにいた。同じなのは相手を想う気持ちだけだ。


「どうしてもマスターに立ち会ってもらいたかったんです」と帰り際に竹下さんが言った。

「あの時も、マスターに聞いていてもらっていたから」

「そう、でしたか」

「ありがとう」

「こちらこそ。どうぞ末永くお幸せに」

 見送って頭を下げると二人がこちらに向かって手を振っていた。その手には輝かしい未来が光っていた。

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