エピローグ





あれから5年が経った。仕事はさらに昇進し、今ではこのエリア一帯の監督を務める役職だ。朝から晩まで遅い時には日付が変わるまで事務処理や店舗視察をしている。

日向さんとは相変わらず一緒に住んでいる。彼女もこっちに来てすぐにスーパーでパートをし出したので家の事は当番制にしようと提案したが、毎日家事や掃除をしてくれているので私は仕事を頑張ることが出来ているのだ。喧嘩をすることもあるがそれなりに上手くやっていけていると思う。2ヶ月ほど前に彼女のお母さんのところに二人で行き、正式に付き合っていることを認めて貰った。

腰まで伸びていた髪も先日の休みの時に日向さんの提案で昔の様に短く切ったのだが、それをとても喜んでくれていた。

今日と明日は久しぶりにお互いの休みが被ったのでどこか出かけようと話していたのだが、結局二人とも起きられずに家で過ごしていた。

ベットの上で本を読む日向さんの膝に頭を乗せて携帯を弄る。時折真剣に本を読む彼女の顔をちらりと見るのが最近のマイブームになっていた。

「…その本面白い?」

「雪にはちょっと難しいかもね」

本の横からこちらを見て、意地悪そうな笑みを浮かべる。

「ひどいなぁその言い方。ずっと読んでるけど、どんな話なの?」

おどけるように返した。

「主人公がとても大切な女の子を笑わせてあげようと必死に頑張るんだ。女の子も主人公の事が大好きだけど、行動を起こすたびに女のが悲しい思いをしてしまうの。そしてそれを悔やんだ主人公が女の子をこれ以上悲しませないために遠くの国に行ってしまう話」

何度も読み返され所々破れかけている本を閉じ、私の頭を撫でる。

「悲しい話なんだね」

頭を撫でる手を握り起き上がる。

「でもラストはね、女の子が必死に主人公を探して何十年後かに全く名前も知らない街で再会して結婚するんだ」

自分の事のように嬉しそうに話す時日向さんを見て自然と笑顔が出る。隣に座り彼女にもたれ掛かる。

「少女漫画みたいな話」

「そうだね。でもそれが純粋な愛なのかもしれないね」

軽く私の手を握る。

「日向さんは少女漫画みたいな恋に憧れたことある?」

ふと、気になった。

「私は…あんまり無いかな。恋愛に憧れたことはないけど、素敵なお嫁さんになりたいって思ってた」

「私はあるよ」

一瞬だけ手の力が抜けるのが分かった。でも何も反応を示さず目を瞑ったまま喋り続ける。

「日向さんに会うまでは憧れてた。普通に男の人が好きになって、喧嘩して仲直りして、他の人が現れて、でもやっぱりその人に戻ってしまうような恋愛をしたいなって思ってた」

「…じゃあちょっと残念だったね」

「でもね、日向さんに会って恋愛して一緒に居て、普通の恋愛と何も変わらないなって思った。私が憧れてた恋愛と何も変わらない。ただ同じ女性だっただけ。世間が何を言おうとも愛した人が日向さんだったんだもん」

肩に腕を回し抱き締める。

「寧ろ他の人達よりもずっと幸せだって胸を張って言える」

そう言い終えるとベットから降り、机の棚の中から美容室に行った帰りに寄った店で買った小さな箱を出して彼女の正面に座った。

「ねぇ日向さん。多分、全員が祝福してくれるとは限らないし、もっともっと問題が出てくると思うし、私が日向さんをすごく怒らせることも増えてくると思う。それでも良かったらなんだけど」

蓋を開けると驚いた表現でこちらを見る。


「私と結婚してくれませんか?」


少しの間が空き、彼女の目から涙が溢れ大きく頷いた。

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少女漫画のような おとうふ @otoufu0644

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