愛と温もりと優しさを
数ヶ月後のとある街
カーテンの間から差し込む光で目が覚めた。誰もいない部屋に目覚ましの音が響き渡る。
「今日か…」
新しい職場の人間と仕事終わりに飲み明かし、そのまま眠りについていた重い体を起こしながら呟いた。シャワーを浴び髪を乾かして着替える。シャツにカーディガンを羽織りスキニーパンツのラフな服にした。住んでいた街よりは少し都会だが私の家から駅は少し離れているため、車の鍵と財布と携帯を持って家を出た。
最寄りの駅までは車で30分。少し遠いが地元の街よりはとても過ごしやすい街だ。人も明るく優しい。難点と言えば人が多いことだろうか。
車の窓から見える風景は建物しか映らないが、どこか心地よい雰囲気を漂わせている。新しい職場では職務態度や人間性を気に入ってもらえ、数ヶ月でマネージャーにまで昇格した。収入も安定したためワンルームの部屋から少し広い部屋に引っ越した。
新しい場所、新しい家、新しい職場、全て1から始めるのは精神的にくるものはあったが、今となってはこれで良かったと思えるほど成長した。髪も縛れるほど伸び多少のメイクも覚えた、がやはり仕事以外でメイクをするのは気が引けた。
駅に着き正面に車を止めてホームに向かった。時計を見ると11:30 確か到着するのは40分だったはず。と、辺りを見渡し見つけた売店で珈琲と紅茶を買う。
「確かこれだったよね…」
久々に再会する人の好きな飲み物を忘れてしまいそうになる。間違ってたら怒られるだろうな。そんなことを思いながら珈琲に口を付ける。会うのは何時ぶりだろうか。電話やメールでやり取りはしていたが姿を見るのは数ヶ月振りだ。あの時そのまま連れていことは出来ず、お互いが落ち着くまで待とうと話し合い今日に至る。とても落ち着かない。電話では言葉はちゃんと聞いていたが、今日になって気持ちが変わってしまっていたらどうしよう。そんなことばかりを考えていた。
「…これが信じきれてないってことなのかな」
口からポツリと言葉が漏れる。その直後駅のアナウンスが鳴り響いた。
-間も無く1番線に特急が到着致します 黄色い線から離れてお待ちください-
改札の見える位置に立ち、少しずつ増える人の波を避けながら不安になる気持ちを堪え探す。人混みが一段落して疎らになってきた時、懐かしい面影を見つけた。その人はこちらに気付くとパァっと笑顔を見せ駆け寄る。数ヶ月振りの再会。駆け寄ってきたと思うとそのまま抱き着いた。懐かしい温もり。静かに、でもしっかりと彼女の背中に腕をまわした。
「…お久しぶりです」
「やっと会えた。髪…伸びたね」
腕を離し向き合い、この数ヶ月で少し大人の雰囲気を纏ったあなたの姿に少し照れながら挨拶をする。あなたは私の頭を撫でながら万遍の笑みで頷いた。
「…本当に来てくれるのかとても不安だったけど、ひゅうさんの姿を見たらさっきまでの不安が嘘みたいに消えました」
照れと恥ずかしさを隠すように頬を掻きながら笑い掛ける。少し驚いた表情を見せ、すぐに
「私は雪と一緒に居ることを選んだんだから来るのは当たり前だよ。それにお母さんも一応認めてくれたし、もう身内に隠さなくていいんだもん」
「認めてくれたんだ… じゃあ私がもっと立派に独り立ちしたらちゃんと挨拶しに行かなきゃですね」
少し苦笑気味に手を繋ぎもう片方の手で荷物を持って歩き出す。
「…雪 前よりも言葉に出来るようになったんだね」
嬉しそうにも寂しそうにも取れる声色だった。
「言葉にしないと伝わらないですからね。変な心配させたくないし」
「それの方が私も嬉しい」
「ひゅうさん。誰よりも愛してます。」
歩きながら伝える。顔を見るのは恥ずかしかった。間違いなく顔は林檎のように赤くなっているだろう。あなたは何も言わずに強く手を握り返した。
この先の未来少女漫画のように上手くいくことは無いだろうけど、この温かく柔い手を引っ張って守っていこうと改めて誓った。
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