未来



30分前になっても日向さんは来なかった。もうこの時間に来なければ諦めるしかないだろう。微かな可能性に期待していた自分に苦笑する。自業自得だ。自分で招いた結果なのだから。

荷物を持って電車に乗ろうとすると携帯が鳴った。驚いて画面を見ると非通知と表示されている。不振に思いながらも電話に出る。

「…もしもし」

「…」

少し待っても返事はなく、こんな時にいたずら電話だろうかと思い、

「間違いなら切りますね」

そう伝え耳から離し終了ボタンを押そうとすると、微かに聞き覚えのある声が聞こえた。

「…ばか」

驚いて携帯を持ち直した。

「雪の馬鹿。なんでいっつも一方的なの…私の気持ち考えてないじゃん…」

紛れも無く日向さんだった。

「…日向さん。ごめんね。いつも勝手に決めて」

「雪は私と一緒にいたくないの?」

電話越しでも分かるほど落ち込んだ声。

「それは違います!! 私は日向さんと一緒に居たい。 …でも、この先不安定な人間に付いてきてくださいなんて言えないですよ…」

「ついて行くかどうかは私のが決めることでしょ。 何も教えてくれないし相談もしてくれない。そんなんじゃ考える事も出来ないし、寂しいよ…」

段々と声が小さくなる。

「…日向さんはこれから先ずっと私と一緒に居たいと思います?」

「私は雪と一緒がいい。楽しいのも辛いのも雪と一緒じゃなきゃ嫌だ」

はっきりした声で答えた。真剣な話をする時の声。私に向き合おうとしてくれている時の声だ。私はいつもこの声から逃げていた。今までの好きな人も友人も、向き合ってくれようとしている人の事も考えずにどうなるかわからない恐怖から目を背けていた。でもここで同じように逃げてしまうと何も変われない。その事だけは分かっていた。

「…わがままかも知れませんが、私もひゅうさんと一緒がいいです。大切な人と離れるのは嫌なんです。だから…私と一緒にいてくれませんか」

顔を上げると涙が出てきそうになるため、俯いたまま伝える。声が震えるのを必死に抑えるように手を握りしめた。

「…雪顔上げて?」

少し優しげな声に釣られるように前を見た。少し離れた先には見慣れた姿が立っている。来るはずはないと思っていた人が。携帯を持っている手をゆっくりと下ろした。目の前の彼女も携帯を耳から離していた。


「なんでここに…」

「……私は雪よりも少しだけお姉さんで、でも雪の方が周りを見てる。一緒にいても足を引っ張っちゃうかもしれない。それでも私は雪と一緒に居たいんだ。自分の足で歩かせてくれる雪と一緒に」

私の問に答えることも無く、少しずつ前に進み言い終えると同時に私を抱きしめる。微かに震えている方を優しく両手で抱きしめた。

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