暫く公園に居たが寒さに耐えられなくなり先ほどまでいたカフェに戻った。カフェにはまだ彼女が同じ席に座っていた。彼女の前に座り珈琲を頼んだ。

「…」

沈黙が流れる。

「…なにか言うことはある?」

それを破ったのは彼女だった。相変わらず冷たい眼差しを向けていた。どう答えようか悩んでいると

「何となくで気付いてると思うけど雪と付き合ってる」

答えたのはあなただった。なにも動じることなくただ淡々と伝えた。私は何も言わずに俯いた。

「…そんな気はしてた。最近の日向 雪ちゃんの話になるととても嬉しそうだったし」

彼女は溜息をつき椅子に深く腰掛ける。

「だからさきの気持ちには答えられない。多分この先も答えることは無い」

目の前ではっきりとした言葉で伝えた。

「そんなこと最初から分かってたよ 日向が振り向いてくれないことなんて」

「それでも私は日向のことが好きだから」

「…ごめん」

彼女の諦めない姿勢に困ったように俯ように謝る。

「謝ることじゃないよ。でも注意するんだよ。周りの人間全員が応援してくれる訳じゃない。況してや日向のお母さんは特別反対派の傾向が強い雪ちゃんとこは知らないけど、気をつけた方がいい」

「…それはあまり外で二人でいるなってことですか?」

私と目を合わせることなく隣に座っているあなたを見た。

「…日向のお母さん どこから聞いたか知らないけどあんたたちのこと勘づいてるよ」

それは私が、私たちが恐れていたこと。この狭い街では勘づかれるのは時間の問題だと思っていたがこんなにも早いとは。一人暮らしを始めたのは正解だった。実家を離れた事で私の親が関わってくることはない。

「…さきさん」

「なに?」

「この人…日向さんをお願いできませんか」

驚いた様子でこちらを見る。

「どういうこと!?」

声を挙げたのはひゅうさんだった。

「…多分日向さんのお母さんはこの街である程度名の知れてる方だからもし自分の娘が女の人と付き合ってるって知ったら相手の人間を陥れようとするはずです。定職に付かずウロウロしているような人間なら尚更。私が暫く姿を消せば何も言わなくなるはず…」

その言葉の意味を理解したひゅうさんは驚いて私の手を握った。

「それって…雪が居なくなるってことだよね 他の方法を考えようよ。絶対にあるはずだから」

「…日向さん。今すぐできる方法はこれしかないんです。すぐに手を打たないとこの街で暮らせなくなる」

あなたをなだめるように向き合い手を握り返した。

「連絡は取れるんですから大丈夫。日向さんはこの程度でダメになるような人じゃないでしょ?」

優しく諭すとあなたは渋々頷いた。

「…とりあえず今日は送っていきます。この話はまた後日で」

お会計を済ませて二人を車に乗せ送った。あなたを先に送って彼女と二人になった。




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