涙
あれから一週間が過ぎていた。あなたに会うことも連絡を取ることもなく時間だけが過ぎていった。誕生日も連絡をすることなく終わり、このまま私たちの関係は終わってしまうのだろうか。どの結果がお互いにとって最善なのか分からなかった。ただきちんと話がしたいそう思いつつ、話を聞くのが怖くなり行動に移せない自分に腹が立っていた。
夜、どうすればいいのかわからずに近くのカフェで時間を潰していた。すると目の前に彼女が現れた。
「相席させてもらうよ」
明らかに敵意と怒り剥き出しの声に私は否定する間もなく、さきは目の前に座った。
「…お久しぶりですね」
動揺しつつ挨拶をするがあなたは私を見つめたまま黙っていた。
「私の顔に何かついてます?」
「日向に聞いたよ。ここで何してるの?」
苦笑いを浮かべながら話しかけると彼女はそれを遮るように話した。
「何って…時間を潰してました」
「そうじゃなくてさ。あの子を置いてなにしてんのって聞いてるの」
私には連絡もないのに、この人には私たちの事を全部話したのか。そう思うと憤りのない気持ちになった。
「…別にさきさんには関係の無いことですよ」
素っ気ない返事で返した。すると彼女は手をぎゅっと握りしめ、
「何も無かったらあの子が私のところに泣いてくる訳ないでしょ」
強めの口調で私を睨みつけた。
「…泣いてたって…どういうことですか」
驚いた。何も連絡のないあなたが泣いて彼女の所に行った。私が原因で。どういう事か理解ができなかった。
「それを教える義理は私には無い。私はあの子が好きだ。あんたがあの子を傷つけるつもりなら私があの子を守る。半端な気持ちで日向の隣にいるならあんたを許さない」
「…私は半端な気持ちでひゅうさんといる訳じゃない。傷つけるつもりも毛頭ない」
私は上着を羽織り店を飛び出し車を走らせながら電話をかけた。
「…もしもし」
あなたはすぐに電話に出た。少し掠れた声で。
「ひゅうさん。私はもう逃げないんで、ちゃんと、今から話がしたいです」
頭の中は混乱していたが話がしたい、その事を伝えた。
「…………今家の近くの公園にいる」
長い沈黙の後あなたは現在地だけを伝えて電話を切った。私は頭の中で言葉を選ぶのをやめ、ただ真っ直ぐに目的地に向かった。
近くの空き地に車を停め、公園に走った。街灯が公園の四隅に立っている。左側のブランコに人影を見つけた。薄暗くてハッキリとは見えないが間違いなくあなただ。私は歩きながら息を整えた。
「ひゅうさん」
目の前に立ち、声をかけると顔を俯かせたままあなたは少し怯えた様子で反応した。持っていたあなたのストールを膝に掛け、隣のブランコに乗った。
「…雪さ、私のこと嫌いになった?」
予想外の言葉だった。
「私が?ひゅうさんのことを?そんなわけないじゃないですか」
驚いてあなたの方を見るとあなたは目に涙を貯めてこちらを見ていた。
「…先月か忙しいの知ってたけど、雪から連絡ほとんどしてくれないし、遊びに誘っても断られるしそれに…」
言葉に詰まった様子で俯いた。
「それに?」
「…雪の部屋に女の人の写真があったから…私じゃなくその人を選んだのかなって…」
女の人の写真?やっぱりあの写真を見たのだろうか。
あなたの前にしゃがみ込んで手を握った。
「忙しくて自分から連絡を取ってなかったのと、遊びを断ってたのは謝ります。でもその写真は違うから安心してください」
「…」
「あの写真は…ひゅうさんの前に付き合ってた人です 専門に通ってた時に知り合ってずっと一緒に居たんですけど、卒業前に気持ちが無くなってきてて、それぞれ就職して自然消滅みたいな感じになってて…でも今はひゅうさんの事しか見てない」
真っ直ぐあなたの目を見つめて話した。あなたは手を少しきつく握りしめ、
「…勘違いして、どうしたらいいのかわからなくて、雪の連絡を無視してさきと遊んでた。ごめんね。」
一筋の涙があなたの頬を伝った。
「…知ってました。その日、体調良くなったから買い物に行ったので。でも写真を置いて何も言わなかったから勘違いしてしまいますよね」
ぎゅっと抱き締め頭を撫でると、あなたは絞り出すような小さな声で謝りながら泣いた。
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