約束
私は思い切って
「ひゅうさんの両親ってどんな人なの?」
と聞いてみた。
あなたは少し表情が曇り俯いた。あまりいい思い出は無さそうだ。
「話したくなかったら無理に話さなくて大丈夫だよ」
気分を変えようと
「出掛けよっか」とあなたの手を引いた。
今日はお店は定休日。折角あなたと休みが合う日。あなたの好きそうな場所や食べ物を考えていたが朝の会話で気分を下げてしまった気がしたので近くの水族館に行くことにした。静かで落ち着ける、私も好きな場所だった。案の定水族館では少し明るい表情を見せながら楽しく回ることが出来た。
夕方、水族館の隣にある砂浜のベンチで休憩することにした。周りには誰もいない。夕日で海が赤く染まり、波打つ音だけが聞こえる。横に座っているあなたは水族館では明るい表情はあったものの1日中上の空という感じだった。
30分程してそろそろ帰ろうか、と伝えようとした時
「…私の親ね 昔は仲が良かったみたいなんだけど、 私が小さい頃から喧嘩が絶えなくて、お父さんが私とお母さんに暴力を振るうようになって離婚して、お母さんに新しい恋人が出来たんだ。相手の人は女の人。その当時はお母さんも偏見なく理解してた。でもその人が浮気して男の人の所に行っちゃったんだって。それからお母さんは同性愛者の人を拒絶するようになったの。結局は偽りの恋愛だって」
話している間あなたは顔をあげることはなかった。でも声から少し涙を堪えているのが分かった。あなたの弱々しい姿を初めてみた。けれどなんて声を掛ければいいのかわからず、ただあなたの手を握ることしか出来なかった。
「…今の私も嘘の恋愛なのかな」
「それは…」
何も言えなかった。今、嘘じゃないと言ってもこの先のことは分からない。あなたに好きな人が出来るかもしれないし、私に好きな人が出来るかもしれない。言葉に詰まり、俯いた。
「…なんてね。ごめんねくらい話して」
あなたはスっと立ち上がり帰ろう、と私の手を引いて立たせた。
「…たとえ恋愛が嘘かもしれなくても今私はひゅうさんの隣にいるよ。この先も。それは約束する」
少し驚いて笑顔を見せた。
「…約束破ったらただじゃないからね」
いつもの優しい笑顔。この笑顔を守らなくては。そう思った。
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