「…寝込みを襲うのは良くないな」

優しい声と同時に腕が伸びてきて私を包み込んだ。そしてそのままベッドに倒れ込んだ。独り言のつもりで言ったのだがあなたは起きていた。

「寝たフリなんて酷いじゃないですか」

苦笑いを浮かべながら眠そうに笑っているあなたの頭を撫でた。あなたは嬉しそうに

「ちょっと寝てたのはほんとだもん。…雪は頭を撫でるの好きだね」

あなたが猫なら間違いなく喉を鳴らしているだろう。

「ひゅうさん凄く嬉しそうな顔するんですもん ずっと撫でていたい」

ぎゅっと頭を腕の中に包み込みさらに撫でた。人肌の温もりが眠気を誘う。

「…暖かいなぁ 誰かと一緒に寝るの何時ぶりだろ」

「…今すごい幸せです ひゅうさんの温もりが手の中にある こんな事私には勿体無いくらい幸せ」

うとうとと眠気がある中思ったことが口から出てしまった。

「…雪…私の側にいて…」

あなたの弱々しい声が聞こえそれに応えるようにぎゅっと抱きしめた。

「私はどこにも行かないよ…ひゅうさんの隣が私を必要としてくれるなら、私はそれに応えるから」

言い終える頃にはあなたは眠りについていた。暖かさが逃げないように優しく抱きしめ、私も眠りについた。





朝目を覚ますと隣にあなたは居なかった。携帯の画面には07:25と表示されている。画面を確認した私はまた布団に潜り込んだ。あなたの匂いがする布団。とても心地よく感じた。でもそれも束の間。ガチャっと扉が開く音が聞こえあなたの声がした。

「雪 そろそろ起きて ご飯作ったから」

モゾモゾと布団から顔を出すとそこには髪を括ったエプロン姿のあなたがいた。

「…ひゅうさんご飯作れたの?」

微笑を浮かべながらゆっくりと布団から出た。あなたは少しムッとして

「朝ごはんくらい作れるよ」と私の背中を押した。


リビングのテーブルには綺麗に二人分の朝食が用意されていた。お味噌汁と白米と目玉焼きとサラダ 何とも理想的な朝ごはん。ここ数ヶ月朝ごはんをまともに食べていなかった為あまり食欲は無かったが、折角作ってくれたのだから食べよう、と手を洗って椅子に座った。

「…いただきます」

手を合わせてから箸を持ち味噌汁を啜った。あなたは不安そうに私を見ていたが、美味しい。という言葉を聞くと嬉しそうに食事を始めた。



朝食を終えて洗い物をして着替えているとあなたが部屋に入ってきた。上着を脱いでいた為あなたは驚いて

「ごめん!!」と謝り扉を閉めようとしたが、私の背中を見るや否や

「…その傷どうしたの?」と恐る恐る近付いてきた。

首から背中に掛けての10cm程の傷。数年前に親とその当時付き合っていた彼女との事で揉めた時に割れたガラス片出来たもの。この時に私の親は同性愛に対して否定的なんだと理解した。

「…前に親と喧嘩してその時にガラスで切ったんだ でももう塞がってるし心配ないよ」

喧嘩の理由は黙っていた。あなたは深堀する様子もなく

「…親と喧嘩なんてしたことないな」と呟いた。羨ましそうな寂しそうな声だった。

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