温もり

この日帰ってからあなたにメッセージを送ったが、返事を見ることはせず携帯の電源を切った。


それから数日。不幸中の幸いか私は仕事が休みだったためあなたに会うことなく、連絡も取らずに過ごした。私があなたに会ったのはあの日から1週間近く経ってからだった。


この日はあなたの方が先に出勤していて、どんな顔をして会ったら良いのか分からなかったが敢えて何も無かったように接する事に決めた。


裏口の前で一息ついて扉を開けた。

「おはよーございます」

目の前にあなたがいた。

一瞬だけ目が合ったがすぐに逸らされあなたは仕事に戻った。

やっぱり連絡を取らなかったことを怒っているのか。そんなことを考えながら着替えて仕事を始めた。


数時間して少しずつ喋るようになってきた。

特に深い会話はしないものの、自然と会話が出来る程度になった。

1人が帰ってあなたと2人になった時、

「ねえ雪、終わるまで待ってるから一緒に帰れない?」

様子を伺うように話し掛けてきた。

断る理由もなく、きちんと話をしなくてはいけない。そう思った私は二つ返事で返した。




仕事が終わったのは22時過ぎ。いつもよりお客さんが多かったため時間がかかってしまった。少し寒くなってきたし、流石に帰っしまっただろうと思いながら店の入口に行くと段差に腰を掛けてあなたは待っていた。


「遅くなりました。」

声を掛けるとあなたはこちらに振り向き笑顔で

「ごめんね。わがまま言って」と謝った。

私は何も言わずに隣に座ってあなたの手を握った。


「手冷たい。こんなに冷えるくらいなら今度にすればよかったのに」

両手で包み込むようにして暖めた。

「…さきが変なこと言ったみたいだけど気にしないで」

やっぱりな。そんなことだろうと思った。

「…確かに私はひゅうさんの過去は知らないし今更相談に乗れることでもない。さきさんの方がひゅうさんを知ってる。それを見せつけられてすごく嫌になった。ひゅうさんの側に居ていいのかなって」

あなたは反論することなく私の目を真っすぐ見つめていた。

「…でも、それでも私はひゅうさんのことが好きだし、引っ張れなくても支えたい」

言いたいことがまとまらず言葉が出てこなかった。

でもあなたは感じ取ってくれたようでぎゅっと手を握った。

「さきが私のことを好きでいたのはずっとわかってた。だけどあの子は私にとって家族みたいな存在なの。それ以上にはなれない。今まで曖昧にしてきた私も悪いんだ。」

「でも私が今大切にしたいのは雪なんだ。それは誰にも譲らない。雪に隣にいてほしいし、支えてほしい。」


落としていた視線を上げ、私の手を自分の方に引いた。

「…そんなこと言われたらもっと好きになるじゃないですか。」

あなたの反応を見る前に抱き寄せた。

「好きになってよ。誰にも負けないくらい」

私を抱きしめ返すあなたの体温が少し伝わって心も温かくなる感じがした。

誰も居なくてよかった。そう思いながら腕を離し

「寒くなってきたんでそろそろ帰りましょうか」

手を引っ張って立ち上がらせた。


「…今日うちに誰もいないからさ、泊まりに来ない?」

立ち上がったあなたは少し照れた様子で笑った。

初めてのお泊りの誘い。そんな顔で誘われたら断るわけがない。

「…他の人にそんなこと言わないでくださいね」

赤くなった頬を見られないようにあなたの手を引いて歩き出した。

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