手と手
夕方 主婦は勤務を終え子供を迎えに行くと言って帰った。
職場には私とあなただけが残った。
お客さんもいない。会話もなく、気まずい雰囲気だけがこの場を支配した。
「…今日は全然話しかけてこないね」
会話を切り出したのはあなただった。
「…なんかどんな顔したらいいのかわからなくて」
「昨日誰が聞いてるかわからない道端で告白してきたのに?」
意地悪そうな笑顔を向ける。
「それは!!…ひゅうさんが言えっていうから…」
「ごめんって」
少し拗ねたような声で反抗した時目が合った。
逸らすタイミングを失い、同時に鼓動が早くなった。
あなたは目を逸らすことなく私の隣にきて手を握ってきた。
「昨日の話さ。雪は私のどこが好きなの?」
少し震えた手を軽く握り返し、
「どこって言われたら返事に困るんですけど、とりあえず全部ですかね」
あなたの不安を感じ取り、気を楽にさせようと無邪気に笑って答えた。
「…全部ってなんだよ」
私の笑いに釣られて少し安心した様子で笑った。
「…やっぱりひゅうさんの笑顔と声が一番好き」
真剣な顔でぽつりと呟くとあなたは顔を赤くして目を逸らした。
「二つもあげてたら一番じゃないじゃん」
「細かいところは気にしちゃだめですよー」
繋いでいる手を軽く振り、そのまま背中向きのあなたを引き寄せて抱きしめた。
「ちょっと雪!!」
驚いて離れようとしたが少し離さないという意思を出すとあなたはすぐにあきらめた。
「…夢じゃないんですよね。こうしてひゅうさんを抱きしめてるの」
「夢じゃないよ。」
私を宥めるように頭をポンポンと撫でた。
「ひゅうさん、そばに居るって事はひゅうさんと私はお付き合いすると言うことでいいんですかね。」
朝から気になっていたことを今だと思うタイミングで聞いてみた。
「なんで敬語なの。」
あなたはキョトンとして笑った。
そして続けて、
「…雪が嫌じゃ無ければ」
私はスっと手を離してあなたの正面に立った。
「私は凄く嬉しいです。でも付き合うってことは…その…………私はエロいことは出来ないというか…」
バツの悪そうな様子で告げた。
「昔からそーゆー雰囲気になると嫌悪感が出てきて…」
様子を伺いながら喋っていると
「そんなの出来ないなら無理してしなくてもいいんだよ」
あなたはまた私の頭を撫でた。
「それに付き合ってるから絶対しなくちゃいけないってことでもないんだから」
少し恥ずかしそうに笑った。
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