私は昨日の電話が嘘じゃないかと飛び起き、携帯の画面を確認した。

画面には昨日のやり取りと着信履歴が残っていた。

それを確認し終わるとホッとため息をついた。

そして改めて昨日の会話を思い出して頭を抱えた。


勢いで言ってしまったけれど、実際に付き合うということになった訳では無い。

その事をどう確認するのかを考えていた。

しかしいくら考えど方法は思い付かずに出勤の時間になった。



「おはよーございます」

職場に着くといつものように挨拶をしてエプロンに着替えた。


「今日なんかテンション低い?」

ひょこっと扉から顔を出して主婦が聞いてきた。

流石に昨日の一件を言えるわけでもなく、

「残念ながらいつも通りです」

と苦笑しながら答えた。


「まぁ後でひーちゃんくるから元気だしな」

主婦は特に気にする様子もなく仕事に戻って行った。


「(そのひーちゃんが問題なんだよなぁ…)」

そんなことを思いながらタイムカードを押して仕事に取り掛かった。



お昼のピークを終えて一段落した所で食器の片付けを始めた。

ちらりと時計に目をやると13時40分を指していた。

あなたの出勤時間は14時 もう少しで来ると思うと最初の頃とはまた違う緊張感が私を襲った。

顔を合わせた時、何を話せばいいのだろうか。


「雪おはよう」

洗い物をしながら頭の中で色々な会話のネタを探しているうちに、いつの間にかあなたは出勤していた。

いきなり声をかけられとても驚いた私は咄嗟にあなたの顔を見ずにしゃがみ込んだ。


「…そんなに驚かなくてもいいのに」


少し寂しそうにあなたは私の横を通り過ぎた。

「…おはようございます。今日はいつもより出勤してくるの早くないですか?」

心拍数が安定するのを待ってからゆっくりと立ち上がり、あなたの方を見て話しかけた。


「ちょっとね、早起きしたから早めに出てきたんだ。」

いかにも良い事がありました。と言うような雰囲気を出しながら笑顔で答えた。


「ひーちゃんいい事あったの? なんか嬉しそうだよ?」

「あ、わかります? 昨日のいい事あって今日は朝からちょっと気分がいいんですよ」

笑顔で主婦と会話をしながらあなたはチラリとこちらを見た。


私は少し恥ずかしくなり目を逸らして洗い物を続けた。




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