第二篇 あやかしたちの先生になることになりました
「痛っ!」
もろに腰をうった。誰かに抱えられそのまま投げ飛ばされたときにうつようなところが痛い。
私はされたことはないけど。
ちりん
「あ、鈴!」
どうやらさっきの反動で手から落ちたようだ。なくさないようにと白いワンピースのポケットに入れる。
にしてもここはどこだろう。
さっきまでと違い薄暗く、怪しい雰囲気が漂っている。同じような神社だがところどころ違う。
取り敢えず、明るいところに行こう。
少し先に木々の隙間からもれた灯りが見える。
せめて現状だけでも把握したかった。
地面が少し悪くお気に入りの足首に紐を交差させるようになっているサンダルでは歩きにくい。
あと少し、あと少しで
「やっと開け……」
言葉を失った。
道がある。家がある。
それはいい。
問題は通っている“何か”だ。
人間とほとんど同じように見えるが決定的に違うところがある。
「なに、これ」
私の声が聞こえたのか通りに通っていた“何か”が一斉にこちらを向いた。
「あれは何者だ」
「おかしな服を着ているぞ」
私からすればあなた方も大概おかしいです。だって、み、耳が猫か犬のそれだったりするし。
「お前、そこで何をしてる!そこは
「清水って、私の」
苗字__と続けようとしたがそれは叶わなかった。誰かに口を塞がれたからだ。
「おや、こんなところにいたんですね。だから言ったんです」
誰っ?!
薄い赤紫色の着流しに同じく薄い深緑色の羽織を着ている。体の線は細く、顔はすっとしており、美しいという言葉がよく似合う。腰にはものものしい雰囲気を醸し出している刀と思わしきものが
恐らく、今の目を見開いた恐ろしい顔をしている私と真逆の顔をしていると思う。
本当に見覚えがない。
私の知り合いに腰まで綺麗に白髪を伸ばし、白い獣耳を生やした人はいない。
真横から口を塞がれたことというもあり、相手に寄りかかるようになる。
あ、男なんだ。
混乱しているくせにこういうところは冷静でいる自分が私自身よくわからない。
「馴れない
状況をうまく理解できてないのは怒鳴っていた人たちもおんなじよう。
「どういうことです?
「紹介してませんでした?私の内弟子です」
「「えぇー!!」」
与一と呼ばれていた男以外のその場にいた全員が叫ぶ。
もちろん、私も例に漏れずだった。
○
「丁寧に運びなさい、といっていたんですけどねぇ。あの子も悪い子じゃないんですよ?」
あの後、驚愕している私を与一とかいう人の連れだと名乗る人が私を俵のように担ぎ上げられよくわからないところに連れてこられこの部屋にまさに捨てられたというような置き去りにあった。
「あの、いろいろ聞きたいことがあるんですけど…」
「はい、何ですか」
「えっと、まず、ここってどこですか?」
先程までにこにこと笑っていた顔が崩れた。漫画とかでよく見るようなほど目を見開き、こちらをじっと見つめてくる。
だんだんと居心地の悪さを覚え目をそらした。
「聞いてないんですか?」
聞いてない、とはどういうことなのだろうか。
「夕子さんがそろそろ引退したいから代わりに孫を、と聞いていたのですが」
「一切合切、聞いてません」
軽く食いつき気味に答えるとあはははと苦笑いをされる。
「なら、一つ一つ確認しながら話していきましょうか」
私が無言で頷き、
「まず、ここはかくりよといいあやかしの世界で私は九尾一族の与一です」
ここまではいいですか、と言われる。
全然よくはないがここは信じなくても無理矢理にでも理解しなければならない。言葉と意味には納得はできないが理解はした。
「あなたの祖母である夕子さんは私の
こちらが理解しているかと確認するようにこちらを覗いてくる。
「私塾っていうのは寺子屋みたいなもののことですか?」
自分の持っている知識の全てを総動員させ、自分が一番近いと思うものをいってみた。
「そうですね、恐らくそれが一番近いですね」
では続けます、と断りをいれ言った。
「次はあなたの番ということですね。もちろん、お給金はお渡しします。どうです?」
どうするべきだろう。今だ就職先も決まっていない。ここならおばあちゃんも知っている。
「どんなことをするんですか?」
やはり、内容は大切だ。
もし、とんでもない肉体労働なら出来ないし、妖怪と言っているから妖怪の使う術の実験体ならご遠慮しなければならない。
「私の助手と言えば分かりやすいですかね。お茶汲みとか子供たちの勉学を見てもらったり、人間史といって
小さい頃からおばあちゃんに寝る前のお伽噺代わりに妖怪について話されていたから多少は知っている。
現世__今現在人間の住んでいる世界。
それを教えるって。出来るのだろうか、そんなことが私に。
「大丈夫ですよ、雪菜さんなら。どうしますか?」
柱時計のちくたくという音がいやにはっきりと響く。少し息を吸い答えた。
「やってみたいです、私でもいいのなら」
そういうと与一さんは一層笑った。
「では、よろしくお願いしますね、“雪菜先生”」
私は呼ばれなれないその呼び名に照れながらはい、と答えた。
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