第8話 終焉
これが最後と、俺は久しぶりにあの世界に行った。
「……」
言葉が出ない。これは本当に俺が創った世界なのか? 現代よりずっと進んだ世界。超高層ビルが建ちならび、空を小型の車ぐらいの大きさのドローンが縦横無尽に飛び回っている。それでいて、自動運転なのだろうか。全く当たる気配はない。
歩く人間はほとんどおらず、道路はパイプみたいなものでガードされていて、中はどうなっているのだろう? 歩いているようには見えず、滑るように移動している。これほどに発達した世界で神が感謝されるか? というより、神は存在すら信じられていないのではないか?
だが、それは違った。神自体は信じられているというか、認識されている。
この世界のやつら、不幸な時には神を恨みやがる。
どうやら、この世界の神というのは感謝されるために存在するのではなく、恨まれるために存在するようで、そういえば、大体見て回ったこの世界に寺、神社、教会といった宗教施設が全くない。宗教施設というものは神に感謝するものだ。つまりは、崇拝する対象ではないのだろう。
神という概念はあっても感謝はしない。ただ、恨むことはする。なんて都合がいいんだ。こいつら。全く。俺ですらと、自らを振り返って……
「ああ、そうか」
ああもう、全力で理解できる。こんな風になるのは予測可能だった。
俺は神の存在なんて信じちゃいなかった。
全部上手くいかなくて、全部嫌になって、最後に口にした言葉が
『恨むよ。神様』
だったんだ。そうか、そういうことか。
神様なんて信じちゃいない。幸運もあったかもしれない。そんなものは幸運だと思わなかった。神になんて感謝したことなんてなかった。それでいて、全部神のせいにした。恨んだ。
今、俺が行き着いた世界は当時の俺の鏡みたいなものだ。
ああ、やっぱり無理だったんだ。自分の嫌な部分をまざまざと見せつけられた気分だ。巻き返しの可能性があるなら,ちょっとは頑張ってみようかなと思ったが,無理だ。これで最後だ。
自分の嫌なところなど見たいわけがない。
時間を進め、進化を促進する。
進化はおぞましい兵器ですらも開発させる。核融合、水爆のさらに上。おれにはその理屈すら分からない。おそらくは、現代の世界において発見されていない粒子でも使う理論なのだろう。
そして、戦争を誘発させてから、災害を起こす。
小惑星の衝突というのも考えたが、なぜかそれはできなかった。兵器で焼き尽くされ、災害により洗い流された大地を見るに、少なくとも文明というものは破壊されただろうし、生き残った人もいないだろう。
後は、時間を費やすだけだ。
何事にも永遠はない。星にも寿命はあるのだ。最後、世界は中心となるべき太陽に飲みこまれた。いつかは地球もこうなるのか。
……終焉というものはあまり気持ちのいいものではない。
まぁ,これで煩わしいことからは逃れられた。いつも通りでいいや。
グロリアには適当に終わらせたとでも言っておこう。
世界を終わらせて、家に戻る。
「なんてことしたんですか!」
グロリアが部屋にいて、血相を変えて怒鳴る。
(さすがにバレるか)
「もう面倒になったんだよ。」
グロリアから視線を外して、座る。
「……私にはもう何もできません。捨て台詞のように聞こえるかもしれませんが」
グロリアの視線は俺には見えなったが、おそらくはさげすんだ目をしていたのだろう。
『せいぜい、あがいてみなさい。』
そう聞こえた次の瞬間には、グロリアの気配はなかった。
そして、俺は思い知る。
終焉の始まりだったということを。
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