第7話 誤算

 やはり、金を稼ぐのは楽ではない。

 神になってよかったのは、進化を使った遊びができるということだ。それに、これからは毎月2000円なら入ってくるはず。ちょっと豪華な食事ができるようになったと喜ぶべきだ。


 望めばきりがない。目標は下方修正する。そんなもんだ。

 

 俺は島で少し遊ぶ以外はなにもしないことにする。俺の遊び場に来ようとするやつもいるかもしれないが、知らない。

 潮流の関係で絶対に流れ着かないようにしたし、何かが近づけば嵐が発生するようにした。

 他の世界なんか知るか。勝手にやってろ。


 そう決めて、俺は時々珍種を見つけるために島を覗いていた。しかし、その珍種もだんだんと珍しくなくなってきた。

 ある程度の独自性はあるのだが、一定の方向への進化をすると似た感じになる。こういう進化を収斂しゅうれん進化というらしい。


 ある環境に適応し、進化する。その環境が近い場合、ある方向への進化へと収束していく。


 要するに、みんな一緒ってことだ。


 こうなってくると、もう遊び場も意味がない。もういいや。目新しいものもなくなった。単なる作業なんてまっぴらごめんだ。

 

 そのくらいやる気がなかったのに、次の月に机にあった現金は4000円を越えていた。

 人口が増えでもしたんだろう。楽して儲かるならそれに越したことはない。


 その次は3000円程度、さらにその次は2000円程度。こんなもんかと思っていたら、その次は1000円ぐらいだった。

 少し放置しすぎたか。そういや、あの離島も見なくなってずいぶんたつ。見に行こうかなとも思うが、もうそんな気力もわかない。放置してお金がわずかでも入って来る。これでいいじゃないか。

 会社から帰って着替えもせず、ベッドで寝ころがってそんなことを思っていると……


「最近、サボりすぎですよ! ちゃんと神様ってことを認識させて、もっとちゃんとバイトしてくれないと」


 グロリアの声が頭に響く。

(かったりな~)

 偽らざる感想である。

「いや、ちょっと最近疲れててさ。また、そのうちにちゃんとしとくから」

 適当な返事をしておく。

「そのうちじゃなくて、今、してください。せめて、世界をのぞくぐらいはできるでしょ」

 えっと杖は……、部屋のすみにあった。最近、全く触ってなかったから、ほこりをかぶっている。

 立つのも面倒だな。

「分かったよ。着替えてからやるよ。ちょっと会社帰りで疲れてんだ。」

「……必ずですよ。このままだと大変なことになっちゃいますからね。」

 

 グロリアの声が途絶える。

 体が重い。なんだかな~。やる気が全然しない。まぁ、もう明日でいいや、とりあえず着替えて寝よう。

 

 明日、明日と思っていると、あっという間に一ヶ月が経ってしまった。社会人になると一ヶ月が異様に早い。


 「また! 前にちゃんとやるって言ったじゃないですか! サボりすぎですよ! もっとちゃんとバイトしてくれないと」


 一か月前と同じようなグロリアの声が頭に響く。

(面倒だなぁ)

 どうしようか。このバイト辞めたいなぁ。ただ、最初に辞められないって言ってたからなぁ……辞められないなら終わらせるか。


 俺は、世界の時間を極限にまで加速させる。世界に終わりをむかえさせる。そうすれば、感謝もくそもない。

 バイトも終わる。辞めることができなければ、時間を加速させて終わらせる。時間は有限。これはグロリアが言っていたこと。時間は進めることができる。これもグロリアが言っていたこと。

 

 最初からそう考えていたことだ。

 面倒だったら,終わらせればいい。

 グロリアは残念がるかもしれないが、説明も少ないし、仕事を放棄したのはグロリアの方だ。


 別に向こうの世界で何が起ころうと俺の知ったことではない。

 まぁ、最後に少しだけ見て、可能性があるなら、やってみるか。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る