第6話 寡少

 さぁ、こっからだ。

 神様への感謝が給料だから、感謝されるようにしなきゃな。

 ……ところで、感謝されるってどうすれば、いいんだ? 自分のことを振り返ってみるとだ、見事なまでに真逆。

 恨み、呪いはしたが、感謝なんてした覚えなんてない。恨んだのってどんなときだっけ? 恨んだときの逆をやればいいことにする。

 盛大に恨んだのは、何もかもうまくいかなかった、あの時だ。


 とりあえず、適当な何人かを選んで、うまくいくようにしてやる。狩りも何故かうまくいく、怪我もしない、周りのやつもいいやつらって感じだ。


 よし、これでいい、神の寵愛だぞ、感謝されるに決まってる。


 ……と思っていた時期が俺にもありました。


 こいつら、幸運を幸運と思ってねぇ。それが当たり前のものだから、そんなもんだと思ってやがる。


 寵愛の意味が全くない。


 しかし、さすが神様だ。人の心の声を読むこともできるんだな。おかげで、感謝されてるか、いないかが分かる。失敗。


 次だ次。

 今度はいつも幸運というわけじゃなくて、細かい幸運を適当に散りばめたら……よくなかった。


 確かに、なんか感謝はされる。

 だが、面倒。しかも、感謝量が小さい。やってられない。

 俺は楽がしたいのだ。


 よし、落として上げる。これでいこう。大多数を巻き込む天災を起こした後で救済する。……ただ、救済するって何すればいいか、分からないな。


 まぁ、やるだけやってみよう。


 で、これが思いもしない大成功。

 救済なんてしなくていいや。こいつら、しぶとい。

 勝手に復活する上に、天災を起こした後はほっておけば、神の怒りが鎮められたとか、騒いで感謝もある。


 定期的に、天災を起こせばいいだけだな。

 もっとも、不安はあるので、ほんの少し罪のない奇跡を起こせる人間を用意して、語りかけて、お前は神の子だと暗示をかけておく。


 与えたのは泥水を飲み水に変えることのできる奇跡。

 単なる濾過で今なら科学的にできることだが、紀元前後の文化レベルなら十分に奇跡といえるだろう。


 語りかけができるのは、大きな発見だった。

 勝手に信者を増やしてくれる。感謝量も増える。

 まぁ、時の支配者というのも出てきて、人心を惑わせるとかで「神の子」に対しては弾圧があるみたいだが、神の試練とかいうことで、解釈してくれるので、ほっておくことにする。


 支配者は支配者で必要なんだよな。

 こうしたまとめ役がいると、文化レベルの進化度が違う。

 文化レベルというのもある程度人が集まるためにも必要で、こちらから制限することはない。


 ただ、自分で神とかいう阿呆には、神の怒りを食らわしてやった。

 とてつもなく高い塔を立てて、神だとか間違えた人間にはある程度完成の目処がたった時点で、いかづちを落としてやった。


 ついでに、こうした奴らはコミュニケーションがとれないようにしてやった。防止しておかないと、またやらないとも限らないからな。


 後、遊び場の離島にはたどり着けないようにしておいた。変なものを持ち込まれて、遊びができなくなったら、腹が立つ。


 そうこうしている間に一ヶ月。

 給料日だ。


 これでいくらだ?

 なんとなく、だが、今回は相当上手くいったと思う。

 ……机の上には、千円札が2枚、百円玉が1枚、十円玉が1枚、一円玉が4枚。

 合計2114円。

 おい、ちょっと待て。いくら何でも少なすぎだろう。

 これは計算間違いとしかいいようがない数字だぞ。この世界の感謝量が月額18万ちょっとだったか?


 この世界で神に感謝を捧げている人間なんてそんなにいないぞ。それに比べれば、かなりの割合で感謝している人間も多いし、その感謝も深いはずだ。

 最低でも万はいくだろうと思っていたのに、これはない。

「おい、これはないだろう?」

 グロリアに話しかける。

「なにがですか?」

 すぐに反応があった。不十分すぎる説明の中でこれだけは評価できる。

「なにがですか? じゃないだろう。この給料、少なすぎだろ。感謝量からすれば、万ぐらいはあるだろう? 2000円ちょっとってのはいくら何でも……」


「間違いなく、正真正銘、2114円です。人口が少なすぎです。この世界の人口は現在、70億人以上です。その中で神に感謝しない人間も多いし、神という概念がない人間も多くいます。けれど、敬虔な信者も相当います。法王もいます。数は力です。あなたの世界の人口は現在、せいぜい5000万人。この短期間でよく増やしましたが、この世界の人口の100分の1以下です。しかも、文化レベルもそれほど高くない。それでもあなたの給料はこの世界の100分の1以上になっています。給料に間違いはありません。……以上、反論があればどうぞ」

 速く、正確な、よどみがなく、一分の隙もない、何回も繰り返したようなグロリアの解説だった。

 正直、ここまで全力のグロリアは初めて見た。


「……」


 そして、まさにぐうの音もでない正論だった。

 確かに古代の世界の人口の少なさを考えれば、仕方のない金額か。

(くそっ)

「分かったよ」

「分かったのなら頑張りましょう。ちなみに今、やっているような天災を濫用するやり方はやめておいた方がいいんじゃないかな。やっぱり人口を減らすことにもなるし。ここまで来たんだから、もう少しじゃない」

 グロリアが妙に明るく言う。


 しかし、俺にしては今回は相当頑張った。それなのにこの結果とは。

 大体70億人もいて、月額20万円に届かないということ自体に疑問を感じるべきだった。

 面倒だ。もういいや。宗教は教えたし、これからはほっといても増えていくだろう。

 後は、あの遊び場で遊んどきゃいい。

 俺はそう決めたのだ。

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