第5話 加速

 頑張って進化させようと時間を進めても進まない。時間だけなら、恐竜絶滅後、相当経過しているはずなんだけどな。部屋に帰ってきて、スクリーンを見る。あいかわらず猿っぽいのは出てこない。給料日からはもう一週間だ。ふーっとため息をつく。

 おかげで、最近はちょっと疲れ気味で、仕事もちょっといまいちな感じだ。


「なにやってるの! このアンポンタン!」

 びくっと体が動いてしまう。

 突然、グロリアの声がひびいて、グロリアが現れた。

 てか、アンポンタンってなんだよ。それ。どの時代の言い回しだ?


「ああ、もう。時間だけ進めて何してるの? ほんとに。時間は無限じゃないのよ。さっさと人間を作りなさい!」


 そう言われてもなぁ。


「そうは言っても、仕方ないじゃないか。人間はおろか、猿さえも出てこないんだから。進化値?ってのが足りないとしか考えられないんだから、時間を進めるしかないだろう?」


「ちょっと待って。詳しい情報を確認するから。……って、植物、動物、全部門種類少なすぎ! もう、これ、『うわっ……、私の世界、種類少なすぎ……?』って広告が出るレベルよ」


 ほんとに日本の文化に詳しいな。口に手をあて、目を見開いて、身振りまで完璧。微妙なとこばっか、しっかりしてやがる。

 だけど、種類が少ないからって何が問題なんだろう?


「進化っていうのはどこから発生するか分からないって不安定なものなの。それを安定化させるためには、様々な種類の生物がいるってことが必要なの。生物多様性ってやつ。つまり、種類が多い=進化値が増えやすいってこと。それがこんなに少ないんじゃ進化値がたまるわけないでしょうが!」


 そんなこと初めて聞いたぞ。

 それに種類が少ないのは俺のせいじゃないぞ。それこそ進化に任せた結果なんだから俺に文句を言うのは筋違いだ。そんな種類の少ない世界になってしまう世界を渡した方が悪いと思う。


「いっとくけど、世界は平等に与えられているんだから。種類が少ないの、あなたのせいだから」


 心を読まれたみたいだ。

 しかし、こころあたりはない……ってことはないかもしれない。


「あのさ……、もしかしてさ、“G”を絶滅させてるのって関係ある?」

「! 原因はそれよ! あの黒の生物が原始より生きてきたってことは知ってるわよね? それだけの長い期間、世界に存在してきたってことは、抜群の環境適応能力を持ってるってことよ。環境適応能力こそ進化の源。それが絶滅してるって進化の可能性を相当狭めてることになるの。そんでもって、あの繁殖力は捕食者には絶好の餌になるの。そのあたりも重要なの」


 まじかよ。なんて不便なんだ。神様。

 それじゃあ、進化のためとはいえ、“G”の存在を許さなくちゃならないのか。すべて見なかったことにしなくちゃならないのか。

 

 仕方ない。

 やつの存在は黙殺するとして、種類も……って、それなりに動植物の種類もあったような気がするんだけどなぁ。


「なぁ、種類が少ないって言ってたけど、そうなのかなぁ? 適当なこと言ってないか?」


「図鑑とか見たことないの? この世界にはすっごい種類の動植物がいるんだからね。 普通は別に何もしなくたって増えるんだけど、邪魔しちゃってたんだから、ここから巻き返しをするためにはこっちから増やしてあげないといけないからね。」


 う~ん。面倒だ。でも、育つというのは面白いし、どうせならキレイな虫やかわいい動物がいい。図鑑を見てみるか。


「分かった。やるよ」


「よろしい。じゃね」


 翌日、本屋によって図鑑を見る。

 小学生向きのカラフルで大きなもの。図鑑だけですごく多いんだな。何の気なしに見ていたが、虫もめちゃくちゃ多い。というか、こいつら、どこが違うんだ? 特にオサムシ類だ。全部一緒。

 はちゅう類や両生類も多い。ヤドクガエル、お前ら最近の戦隊物か。色違いで勢揃い。


 調べた結果を世界に反映させる。昆虫やはちゅう類なら進化値は十分に足りているはず。それから、花も増やす。動物の繁殖には植物の繁栄も重要なはずだ。

 そして、時間を経過させる。


 ……なんだ? これ。

 地形というか、繁殖していく植物がみるみるうちに変化を遂げていく。これが進化なのか。

 大陸は広範囲に似たような進化をしている。島はというと、なんか変わった進化をしている。ちょっとさらにいじってみる。おお、さらに変わった感じになった。もう少しやってみよう。……もっと変わったな。


 なるほどな、小さい島なら外からの影響を受けにくい。ちょっといじれば、その変化が大陸とは比べものにならないほど、大きくなる。

 というよりも、一つの祖先からでもいろいろな種類の亜種が生まれてくる。そうかこれがガラパゴスになるわけだな。

 そりゃ、そうなるよ。

 大陸よりもよっぽど面白い。これなら、大陸はほっておいてもいいか。島で遊んで、大陸でバイト。

 よし、これでいこう。


 ……そうして、島で遊んでいるうちに、ついに大陸で誕生した。

 直立2足歩行動物。


 猿人だ。

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