〜第十九師団の面々〜
階段を登ると剣二が待っていた。
「星雪、紹介は済んだか?」
「はい、終わりました」
「肝心なところをはぐらかされたけどね……」
涼花が口を尖らせながら呟く。
「何か言ったか?」
「なんでもありません!」
涼花は、ふくれっ面をしながら答える。
「そうか、なら付いて来い。俺の師団の奴らに紹介してやろう」
剣二は、星雪たちに背を向け長く続いた西洋造りの廊下を歩いて行き星雪たちもその後に続く。
廊下のまるでローマの神殿を思わせる装飾からは、ここが兵舎とは到底思いつかない。
「なんかすごいね! この壁の柔らかい感じがする彫刻」
涼花は、始めて見る本格的な洋風造りに興味津々だ。
「これは海外造りと言って最近海外から入ってきた建築様式なんだよ。都志見にはこんな本格的な海外造りはまだないよね。シュウは見たことある?」
「おう! 兄さんの師団を見学させてもらった時に見たぜ!」
周造は、自慢げに右手を腰に当てる
「さすが、千葉の家の人間だね……」
星雪は周造が二十名家であることを改めて実感する
剣二は、「第十九師団」と表札が掛かった扉の前で止まる。
(うん? 第十九師団? ここは第五師団で、廣島は第五師団の担当だったはず……)
星雪の頭に疑問が浮かぶ。
剣二は、ノックも無しにドアノブを回し中に入る。すると、
「お疲れ様です! 佐々木大佐!」
中々の広さを持つ部屋の中に置かれた机や長椅子に座っていた兵師と思われる6人の人々が一斉に立ち上がり、角度の完璧な敬礼をする。
「おう! お前らも中に入れ」
剣二は、星雪たちに手招きをする。
「大佐、その者たちは?」
「ああ、今日からうちの師団の団員となる奴らだ。まだガキだが、仲良くしてやってくれ」
「なるほど、書類にあった者たちですね。しかしあと2人足りないように見受けられますが……」
「そいつらは家の用事を済ませてから来るんだとよ。全く近頃の若い奴らは……まぁ良くも悪くも若いっていいよな」
剣二は、部屋の奥につけられた開放的な窓の前に置かれた威厳を感じさせる師団長席の机に腰掛け足を組む。
「大佐も十分お若いと思いますよ」
「おーおー嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。だか俺にお世辞を言っても給与は上がらねぇぞ」
師団の中に笑いが起こる。星雪はその様子を見て少しホッとする。
「大佐、本題ですが、誰をこの子達の担当上官とするおつもりですか?」
「俺がやる」
「大佐自らですか⁉︎」
予想外の返答に師団全体に動揺が広がる。
「しかたねぇだろ5代目直々の命令だ」
「5代目直々に……」
師団の兵師たちは口々に話し出し、師団内の空気が乱れ始める。
「そういうわけだから俺が担当だ。後で部隊を組ませるが……まず、駐屯地を案内しよう。葉山大尉、こいつらに駐屯地の案内をしてやってくれ」
「わかりました。みなさんこちらですよ」
葉山大尉と呼ばれた若い女性は星雪たちを連れて部屋を出て行った。
「ふー、ガキどもの世話は疲れるな……」
剣二が息をついているとドアが開き、1人の男と2人の女が入ってくる。その軍服から3人とも階級は、中佐と見える。
「お疲れ様です!」
兵師たちが立ち上がり敬礼する。
「うん!君達も元気そうでなによりだよ〜」
その中の銀髪の男が柔らかい声で語りかける。
「おお、帰ってきたか。山の国の様子はどうだった?」
剣二は、立ち上がり3人に近づく。
「おそらく、あとひと月もあれば掃討戦に入れるでしょう。特に
3人の中のメガネをかけた見るからに知的そうな小柄の女性が答える。
「
剣二が薄笑いを浮かべる。
「いや〜 なかなかすごい戦いっぷりだったよ〜 剣二もくればよかったのさ、なんで来なかったの?」
銀髪の男は不機嫌そうな顔をする。
「悪かったよ、
「5代目からの指令とはどのようなものですか? 剣二様」
小夜が心配そうに話しかける
「心配するなよ! 小夜! どうせ剣二のことだ、あの舐めた態度を怒られたんだろう」
小夜とは対照的な、活発な女性が小夜の肩を組む。
「
「ハイハイ、出ました小夜の剣二様々発言。絶対剣二のこと好きでしょ」
「す、好きとかじゃないわよ。私は、ただ佐々木剣二様の従者として言ってるだけよ。」
小夜が焦りながら否定する。
「ははは、元気だね〜 2人とも。ところで剣二、5代目からの指令はなんだったの?」
冬心は、真剣な眼差しを剣二に向ける。すると言い合っていた小夜と葉紋も手を止める
「まぁ、お前らにも伝えなくてはならないからな。教えてやる。おい! この3人以外は部屋から出て言ってくれ」
剣二の声に兵師たちは、剣二を含めた4人を残して出て行く。
「さっき出て言った3人と関係があるのだろう?」
葉紋が話を切り出す。
「まぁな、まず、5代目からの指令書を見せよう」
剣二が札を取り出し、力を込めると札が光り、煙が発生する。
その煙の中から指令書が現れる。剣二は、冬心に指令書を渡し広げさせる。するとそこには、
「佐々木剣二大佐、
「そういうことだ」
「この鬼塚星雪、神谷涼花の両名は、あの襲撃事件の生存者でしたね」
「さすが、小夜だ、よく知ってるな」
「恐れ入ります」
小夜は、顔を赤くし、本当にうれしそうな顔をする。
「剣二、まさか、あの襲撃事件の狙いはこの2人だったっていうのか?」
エリナは、驚きの表情を表す。
「まぁ、それだけじゃないだろう。帝国への威嚇とも取れる。だが、その可能性は高い。だからわざわざ俺たちの師団に入れたのだろう。あいつらの班員にあの者たちを指定してな。」
「でも、僕たちの師団に入れたら危ない任務も多い。大丈夫なのかな?」
冬心は、心配そうな顔をする。
「他の新兵と同じ第五師団に入れて襲撃を受けるより、俺たちの師団にいた方が帝国にとっていいと考えたのだろう」
「それでは私たちは、捨て駒みたいではないですか」
小夜が不機嫌そうな顔をする。
「違うぞ、小夜ちゃん。僕たちの師団の強さを見込んで頼んだんだよ。そうでしょ?剣二」
冬心は、不敵な笑みを浮かべる
「そうだ! 俺たちの師団は、帝国最強だ。何も恐れることはない。だから、あのガキどもを守ってやろう。かっこいい大人としてな」
その言葉に冬心、小夜、エリナの3人は決心した様にうなづく。
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