〜希望と野望〜
星雪が目を開けるとオレンジ色のまばゆい光と共に心配そうに見つめる涼花とばあやの顔が入ってきた。
その光景を見て星雪は、何か暖かいものが体をめぐるのを感じた。
しかし、あたりを見回し病院にいることに気が付く。そして、自分が置かれている状況を思い出し跳び起きた。と次の瞬間
「ほっしー! よかった~もう起きないのかと思ったよ~」
涼花が獲物を見つけた獣のような勢いで抱き着いてくる
「うぐ……神谷、痛い~ 死ぬ~」
「あ!ごめんごめん」
「若!心配いたしましたよ」
ばあやがほっと胸をなでおろす。
「ばあや!何でここに!ここまでは来られないはずじゃ……」
「ちょっと涼花ちゃんに手伝ってもらいました」
「へへ。ルール破っちゃった」
涼花が琥珀色に輝く大きな水晶をバックから取り出す。
「なるほど、そういうことね。ところで、俺はどのくらい眠っていたの?」
「丸一日ぐらいです。お医者様の話によると支配力を過度に使用したことによるショック状態だそうです。念のため診察してもらったほうがよろしいでしょう。お医者様を呼んできます」
そういってばあやは病室を出る
「・・・・神谷。義孝たちは、みんなは、どうなった?」
星雪の脳裏に仲間たちのことが浮かぶ
「残念だけど、生き残ったのは、うちら合わせて5人だけだったよ。その中での何人かは、もう兵師(へいし)としてやっていけないほどの重傷を負ってる」
「そうか……やっぱり、俺がすぐに名乗り出ていればこんなことにはならなかったんじゃ……」
「でた!ほっしーのネガティブ思考。そんな思い詰めても、いいことなんて一つもないよ。」
涼花がまるで探し物を見つけた子供のような顔で指さす。
「どうみても今回の事件は俺のせいだろ!俺は恐怖に勝てず自分の運命から逃げようとしたんだ……もっと早く出ていれば……」
星雪は涼花に詰め寄る。
「だったら……なんであの時戻ってきたの?自分の運命を乗り越えようとしたんじゃないの?」
涼花が負けじと詰め寄り胸ぐらを掴む。
「あれは……成り行きというか……」
星雪は言葉に詰まり、うつむく。
「もういいよ、そうやっていつまでも、くよくよしてればいい!」
涼花は星雪の胸ぐらを突き放し、強引にドアを開け、病室を出ていく。
「せっかく見舞いに来てくれた彼女を怒らせるとはレディに対する配慮が欠けているんじゃないか? ほっしー。」
入れ替わりに大神政宗がドアにもたれ掛かっていた。
「政宗さん……あいつはそんなんじゃないです。」
「そうか? そういえば、あの子は確か3年前、お前が岸の国から連れ帰ったんだよな。」
政宗はベッドの横の椅子に腰かける。
「ええ。あの時はお世話になりました。ところで、今日の用件は何でしょうか?」
「何って、お見舞いに決まってるだろう! 大切な弟分が怪我したんだぞ。ほれ、手土産だ。」
そう言って政宗は懐からまるで闇を切り取ってきたような石を取り出す。
「何ですかそれは?」
「これは”ドミネイト鉱石”というものだ。まだ国家機密で表には出てない代物だ。この鉱石を使えば大幅に支配力を強化できる。3年前の戦争を起こしたのはこの鉱石を手に入れるためと言っていい」
「戦争を起こしてまで手に入れる価値のあるものなのですか?」
星雪はまじまじと真っ黒な石を見つめる。
「ああ、この石はこの国に伝わる宝具の材質とほぼ同質でな、この石があれば宝具に匹敵する力を持つ武器を大量生産できる。」
「そんなことになれば国家間のパワーバランスが……」
「この石があれば我が国が大陸を支配できる。小国の運命から逃れられる!わかるか、ほっしー。この石は希望の結晶だ。」
「希望の結晶……」
「これを渡しておくぞ」
政宗は星雪の手にその石を握らせる。
「いいんですか? こんな大切なものを俺に渡して。」
「遠慮するな。これは、その石の研究のお礼も兼ねてる。」
「では、ありがたくいただきます。」
そう言って星雪は大事そうに、その石を掛けてあったカバンにいれる。
「お話は終わりましたか?」
「ばあや⁉︎」
「大神少将。わが主は昏睡状態から目覚めたばかりです。どうかお気遣いお願い致します。」
「ほっしー。なぜ、この人がここにいる?」
「いろいろありまして……」
星雪は苦笑いする。
「もう少し外で待ってくれないか?式神さん。」
「わかりました」
ばあやは戸を閉め、再び部屋の外へ出る
「ほっしー、しっかりケガを治せよ!ああ、それと近々戦争が起こると思う。おそらく、お前ら新兵も出番があるぞ」
そう言って政宗が立ち上がり病室から出ようとする。
「え!? 新兵って、俺は試験に合格したことになっているのですか? それに戦争って……」
「全て里長の采配だ。それはそうと、お前たち二人が侵入者を倒したのだろう?」
「気づいていたのですか……」
「いや、ただの勘だ。だか、そうなるとあの力を使ったのか?」
「ええ……」
「そうか……ならば、確実に襲撃者は殺したんだよな? お前の力を知られるとまずい」
政宗は鬼気迫る顔で問いかける。
「はい。目撃者もいないはずです。」
「ならばいい……」
「ですが……敵の最期がどこか引っかかります……それに五大名家に調べられたらおそらく……」
「まぁ、安心しろ。名家のぼんくらどもは特高が殺ったと勘繰り、詮索しきていない。心配性が過ぎるぞ! 星雪」
政宗は顔を崩し、軽い調子に戻る。
「だったら良いのですが……」
「よし! 俺は帰ることとする。さっきから式神さんの視線が怖いしな……」
政宗が親指で後ろを指す。その方向に星雪が目を向けるとドアの隙間からばあやが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「ば、ばあや……」
星雪は苦笑するしかなかった。
「そういうわけだ。じゃあな」
政宗は病室から出ていった。
「さあ、若! 診療の時間ですよ!」
入れ違いにばあやたちが待ってましたと言わんばかりに入ってくる。
「若?」
医者と看護師が顔を見合わせる。
「あははは……もう無理だな。」
星雪は恥ずかしそうにうつむく。
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