〜屋上で⁉︎〜
診察を終えた星雪は屋上へ向かう。屋上の重いドアを開くと、そこには沈みゆく夕日を見つめ、その柔らかな色に包まれた涼花がいた。
「神谷……」
「何しに来たの!」
涼花が星雪の方へきびすを返す。
「さっきは悪かった……」
「なに?わざわざ、謝りに来てくれたの?」
涼花はクスクス笑う。
「うっ、まぁね……」
予想外の涼花の反応に戸惑いを隠せない。
「ほんと、ほっしーは心配性だね!」
涼花は満面の笑みを浮かべる。
「本当はね。あの時戻って来たのは、ただ神谷に死んで欲しくなかった……もう家族を失いたくなかった。あの日からもう、13年、俺は両親の顔や思い出にモヤが、かかったかのようにぼやけてきている。忘れてきているんだ。だから、この3年間、俺に家族ってものをもう一度教えてくれた神谷だけは守りたかったんだ。」
星雪は夕日に照らされながら黒が多くを占めた星のような目で真っ直ぐ涼花を見つめる。
「じゃあさ、そう思ってくれるなら、そろそろ下の名前で呼んでくれない?」
涼花は星雪の手を握り上目遣いで囁く。その顔は赤く染まっていた。それは夕日のためなのかどうかは、わからない。
「うぐっ……」
その様子に星雪は目のやり場に困る。星雪の心臓の鼓動は高まり、全身を張り裂さかんばかりに血液を運んでいた。
「ゴホンッお取り込み中のところ悪いが……」
突然、声が聞こえ2人は反発する磁石のように離れる。
「シュウ⁉︎」
「千葉くん⁉︎」
『なんでここに⁉︎』
予期せず2人の声は重なる。
「ほっしーの見舞いにきたんだよ。昏睡状態だと聞いたから。そしたら病室にはいないし、やっと見つけたと思えば……ほっしー、お前も隅に置けないな〜」
周造は、やれやれと言いたげな仕草をする。
「ちがっ、違うって!」
星雪は大慌てで反論する。
「ほほ〜ほっしーがここまで取り乱すとはやっぱり、そういう関係だったか……」
周造は顎に手を当て納得した様に頷く。その顔は面白いおもちゃを見つけたぞという様な悪魔の顔だった。
「こんな、おてんば娘どこが……」
そこまで言葉を続けたところで星雪は背後に冷たいものを感じる。それは、直感的でもあり、物理的でもあった。
「おい……ほっしー、後ろ……」
周造がまるでこの世の終わりのような真っ青な顔をしながら震える指で星雪の後ろを指す。
「ほっしー、今のはどういうことかな?」
背後から怒りを怒りでサンドしたような声が聞こえる。
「いや……その……なんていうか……冗談だよ! ま、まさか本気にした?」
そう言いながらも星雪はいっこうに収まらない背後からの殺気にどうしても振り向くことができない
「言いたいことはそれだけかな?」
「えーと、涼花さん。少し落ち着こうか……」
「2人とも……歯、食いしばれ!」
ものすごい勢いで涼花が星雪と周造に迫っていく。その足音はカウントダウンのように、これから起こる惨事を告げ、その拳はしっかりと握られている。まさに鬼と寸分違わなかった。
「あはっ……また病院生活か……」
「なんで俺まで!」
鮮やかな赤紫色の
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