〜五大名家の世界〜

 事件発生から数時間後。地方に視察に出ていた五代目里長、雪村誠一郎が都志見(つしみ)に戻り、五大名家である「大神」「佐々木(ささき)」「西行(さいぎょう)」「天木(あまぎ)」「土屋(つちや)」の当主らを交えた。安全保障理事会が始まった。


 里長と当主たちは円卓に座りそれ以外の関係者はその周りに立っている。


「では、安全保障理事会を始めさせていただきます。今回の議題は皆さんご存知のことだと思いますが、結界国立兵団学校卒業試験を何者かが襲撃した件についてです。」


 里長の秘書官の女性が会議の開始を宣言する。


「僭越ながら私、西行守大尉が事件状況について説明いたします。事件現場には、結界が張られた痕跡があり、その結界によって誰1人、事件が起こったことに気づきませんでした。卒業試験を受けていた他の班が結界に気づき、報告。それによって我々警務部隊も事件発生を知るところとなりました。試験監視員は全員何者かによって殺害されており、襲撃された学生たちは、五人を除いて全員死亡。生存者も重軽傷を負っています。犯人は依然、行方が分かっていません。」


「犯人はわかっていないのか?」


「いえ、目星なら付いております。おそらく、下手人は我々が3年前に滅ぼした岸の国の残党だと思われます」


 後ろに控えている者たちの中から優に180㎝はあるであろう若い男が発言する。

 その爽やかな顔つきはまさにイケメンというのにふさわしい。


 彼の名前は大神政宗おおがみまさむね、五大名家である大神本家の長男にあたる人物で、里長の懐刀と言われている。


「何か確証はあるのか?」


 里長が尋ねる。


「事件の生存者からの襲撃者の使う技や言動を考えますと”岸の国“が……」


「わかっているならすぐに“岸の国”の残党狩りと岸の国の元大名を見せしめに殺すべきだ。」


 大神家当主大神速雄おおがみはやおが政宗の話を遮り、怒りをあらわにする。


「父上、それは道理に反します。」


「黙れ、政宗! 貴様は悔しくないのか! 次期当主が殺されたのだぞ! それでも大神家の一員か!」


「子供ではなく次期当主ですか。相変わらず子供のことを家のための道具としか考えておられないのですね。だから私は家から去ったのです。」


「は? 勘違いもいいところだな! 貴様に力がなかったからわしが追い出したのだ。第一、海外から帰ってきた貴様が西洋かぶれし、拡張政策を進言したからこんな状況になっているのではないのか?」


「聞き捨てなりませんね。父上、私はあなたと違ってこの国のことを思って行動したまでです。父上の狭い視野とは違います。」


「なんだと!この出来損ないが!」


「こんなところで親子喧嘩か。大神もおわりだな」


 天木家当主、天木友三郎あまぎともさぶろうが速雄の精神を逆なでするように鼻で笑う。


「この青二才が! 口を慎め」


「なんだと! このおいぼれが」


「静まれ! この状況がわかっとるのか!」


 里長が怒鳴ると一気に静まり返る。彼は70を過ぎた老人だが戦闘能力は結界帝国随一と謳われ、威厳と人望を兼ね備えている。


 絶大な力を持つ五大名家を抑えていられるのは彼によるところが大きい


「岸の国出身の者への監視と、結界帝国の重要拠点の警備の強化を急げ。ひとまず、これでよかろう」


「恐れながら、意見具申いたします。」


 政宗が発言する。


「口を慎め!」


 速雄が声を張り上げる。


「よい!政宗。お前の考えを聞こう」


「は!今回の事件、3年前ともに岸の国を攻めた山の国の仕業とし、山の国を同盟国である夜の国と結託し滅ぼしてはどうでしょう?」


 予想だにしない提案にその場に衝撃が走るがそんなことおかまいなしに政宗は話を続ける。


「岸の国を滅ぼしたのはユーラ大陸と貿易し“ドミネイト鉱石”を手に入れるために貿易港が必要だったからです。しかし、山の国は裏で我々の貿易の妨害を行っているばかりか、我が国が成立当時から戦い続けてきた出雲帝国と手を結ぶつもりだという報告が特高とっこうからされています。」


「なるほど。そうなるとこれは良い機会かもしれんのぉ」


 特高、その名前が出たとたん再びその場の空気が一変し、重い沈黙が流れる。


 特高は特別高等警務部隊とくべつこうとうけいむぶたいの略称で里長の直属部隊である。


 特に暗殺や諜報活動などを行っていると言われているがその実態は闇に包まれている。五大名家と里長の均衡を保つための、かなめと言っていいだろう


「里長殿、それは……」


 ようやく天木友三郎が顔色を変えて問いかける。


「なんだ? 怖気付いたか?」


 速雄がバカにした調子で発する。


「そんなわけないだろ!」


 友三郎はそれを慌てて否定するが、その言動からは焦りが感じ取れる。


「まあ、よい。一週間後の定例会議で開戦の議論をするとしよう。各々、一族の者とよくはなしあっておいてくれ。今日の会議はここまでとする」


 この一週間後、定例会議で大議論の末、山の国への攻撃が決定する。

 この決定は星雪のいや、この国の運命の歯車を大きく回すこととなる。

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