第3話
介護施設で働く傍ら、やっぱり僕は出版社への就職、帝國出版への就職を諦めきれず、いろいろなことを調べていた。
その中で分かったことは、大手を狙うとなると中途採用の場合、「経験が必要になること」、そして「学歴が絶対的に必要になること」だった。
経験は今の段階ではどうしようもない。
今の僕にできることは、学歴。学歴をグレードアップすること。
つまり有名大学に入学しなおして卒業することだ。
学士編入を選べば期間的にも金銭的にも不可能ではない。
ただし、その分ハードルはグッと上がる。
要約すると、「勉強しなければならない」ということだ。
でも、理屈ではそうと分かっていても、実践するのは難しかった。
今の仕事だと夜勤もある。生活リズムが崩れるなかで、凄まじいほどの勉強量をこなすのは並大抵のことではない。
それでも僕は時間を見つけて、いや作って、勉強していた。
そのせいで、仕事中に集中力を欠いて失敗することも多くなった。
高橋さんにだけでなく、神戸さんにも怒られることが増えた。
僕は、僕は僕なりに必死だった。必死に勉強していた。
でも、そのことを誰も知らない。だから、誰も評価してくれない。
誰も何も知らないくせに。
でも、高橋さんは、介護福祉士だけでなく、社会福祉士、ケアマネージャーの資格も持っている。
もちろん、帝國出版に就職するというハードルに比べたら随分と容易いのだろうけど、それでも、それらの資格は「今、確かにあるもの」だった。
今、何も持っていない僕からすると、それだけで死にたくなるような思いだった。
僕は僕なりに努力してるのに。
高橋さんは今日も淡々と、飄々と、優しく、厳しく働いている。
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