幸運の国、クローバー編

クローバー国からの招待状



 これは依頼品であったステンドランプを制作し、無事届けた1か月後の話である。



―――ライゾーが、経営するトゥルーガラス。一人の少女が店番をしているアンティーク調の室内は暗かった。

 入口には少し煤けた看板が、玄関に取りつけられていた。

看板には、近くに寄らないと分からないぐらい薄くなった黒色で――CLOSEと書かれていた――――







「ライゾーさん!そろそろクローバー国に付きますからその顔やめてください!」



 白色の帽子の鍔を両手で押さえながら、すぐ隣でご機嫌斜めな表情をしているライゾーに声を掛けたのは、スノーだった。

 スノーとライゾーは空を飛ぶ船サファイア・シップに居り、二人はデッキで寛いでいたのだ。



「もう・・・そりゃ行きたくないのも分かりますけど・・クローバー国の王様、ヨツバ王から招集されたんなら断れませんよ?」



 クローバー国。それはライゾーさんやスノーが暮らすブルバディア王国の隣国にある国で人呼んで“幸運の国”

 街の国民一人一人仲が良く滅多な事では争いが起きず、争いにも手を貸さない完全な中立国であった。


 そんな中立国であるクローバー国の王ヨツバという人物から、ライゾーとスノーへ一通の手紙が送られたのだ。

 それは、ライゾーにクローバー国の象徴である女神ハピネスが被っている王冠の制作を頼む物だった。

 手紙を届けに来た従者の話では、もう何人もの職人が女神ハピネスの王冠の制作に挑んだがその繊細さ故失敗が続いているという。


 そして今回女神ハピネスの王冠を制作するには理由があった。

その理由はヨツバ王の末娘であるアイリス皇女様の成人を祝う日が後2か月後に迫っているのだ。

 唯一の一人娘であるアイリス皇女をヨツバ王は溺愛しているらしく、女神ハピネスの王冠を被ったアイリス皇女を絵として残したいという。


 それを聞いたライゾーは最初は断っていたが、クローバー国の王であるヨツバ王からの直々の招集を断れるほどライゾーには力が無かった。

 渋々了承し、店を閉めこうしてクローバー国へ目指しているのだった。



「特注品は作らないと言ってるんだが・・・」


「ま、まぁまぁ・・・でも凄いじゃないですか!一国の王様にも名前が知られてるなんて!知り合いとして鼻が高いですよ!」



 ライゾーはチラッと此方を見て、すぐさま景色に目を移してしまった。下を見れば青い海、上を見れば鮮やかな空色。上も下も青一色であった。

 デッキで寛いでいる二人だが、スノーには聊か不安な事が二つあったのだ


 一つは、ライゾーが偉い人に向かって容赦のない一言を浴びせないかと言う心配。

 もう一つは、ライゾーの容姿の問題であった


 ライゾーの容姿はお世辞じゃなくても美男子というレッテルを貼れるぐらいのレベルだった。

 少し紺が混ざった綺麗で長い黒髪。スッと通った鼻筋やくっきりとした二重に黒真珠のような黒い瞳。

 一つ一つが人形のように美しいライゾーの容姿は、多くの女性を目線を独占している。


現在こうしてデッキに出てはいるが、遠くからは女性の話し声が此処まで聞こえてきていた。

 当の本人であるライゾーは無視を決め込んでいるようだ。スル―スキルはトップクラスのようだ。



「あっライゾーさん!クローバー国ですよ!」



 しばらく青い海が続いていたが、しばらくすると鬱蒼とした森林が見えてきた。

すると鬱蒼とした森林の途中に、巨大な木が長く太く伸びており船の上からでも姿を確認できたので実際傍に行けば相当な大木なのであろう。



「ライゾーさん。あれなんですか?」



 スノーはその巨大な大木を指さすと、チラッとライゾーはその巨大な大木に目を移した。しばらく黙っていたが1分後説明をしてくれた。



「クローバー国の大樹、ハッピーツリーだ・・・伝説ではクローバー国の象徴である女神ハピネスが降り立った時、ハピネスが吹き込んだ息吹により小さなクローバーは大樹となり今も成長し続けている・・・とか」


「へぇーそれでクローバー国って名付けられたんですね・・・というか案外物知りですねライゾーさん」


「・・・ほっとけ・・・」



 小さく呟くとライゾーはまたそっぽを向いてしまった。スノーは頭良いんだという事を知り、少しライゾーの事を知る事が出来て嬉しそうだった。

 すると、ザザーッというノイズ音が船内に響き渡った。その後すぐ40代ぐらいの男性だろうか、男の人が船内中に聞こえた


【これより、クローバー国に着陸します。デッキに居られる方は部屋に入るか何かに捕まるなどをして振動に対して対処をお願いします】


 男性はそれを1,2回繰り返して言うとガチャッと音を立て放送が終了した。しばらくすると、船はゆっくりと降下を始めていた。

 スノーは片手で帽子を押さえながら、もう片方でデッキの木で出来た仕切を掴んでいた


 すると船は音をたてながら着地した。その振動があまりにも大きく片手で体を支えていたスノーはバランスを崩してしまった。

 その瞬間ライゾーは腕を伸ばし、スノーの腰に手を回すとスノーの体を支えてくれたのだ。

 流れるような手業にスノーはしばし唖然としながら、紳士的な態度を示したライゾーを見つめていた。

 ライゾーは此方を見ると、面倒臭そうな顔をしながらスノーの体制を戻させながら毒を吐いた



「・・・やっぱり、馬鹿だな」


「ば、馬鹿って!せっかくカッコいいと思って見直したのに!」


「見直して貰わなくて結構だ」



 ライゾーはそう呟くと、足元に置いていたバックを持つと足早に船を出口へ向かって行った。

 慌ててスノーは帽子を被り直し、茶色の肩掛けバックを腰の方に回すと先を急ぐライゾーの元へ走って行った



「ちょっと待ってくださいよー!」


「・・・・・・・・・・・・・」


「無視ですか?!」



 傍から見れば兄妹に見えるか、恋人に見えるかとても微妙なラインの関係に見える二人を他の乗客たちは兄妹旅行か、恋人の旅行か噂をしていたのを二人は知らない。




 二人は船を降りると、あちらこちらにクローバーが敷き詰められていた。まるでクローバー畑のような場所だった。

 すると一人の若い男性がスノーとライゾーに声を掛けてきた



「失礼します。ブバルディア王国からいらっしゃりましたライゾー様とスノードロップ様でしょうか」


「あ、はい!えーと・・・貴方は・・・」


「大変失礼しました。ご挨拶もなしに・・・私の名前はフリージア・アクトリズムと申します。フリージアとお呼びください。私はヨツバ王からのご命令によりライゾー様とスノードロップ様のお迎えに参りました」



 フリージアと名乗る黄色の髪の毛をした若い男性は、白を基調とし胸元にクローバーの紋章を付けた軍服に身を包んでいた

 優しそうな笑みを浮かべながら、スノーとライゾーを馬車へ移動させた

 スノーとライゾーは馬車へ乗り込むと、すぐさま動き出した馬車の窓からスノーは顔を覗かせた。



「クローバー国って・・・やっぱり自然が豊かですねライゾーさん」


「・・・そんな良いもんじゃないと思うがな・・・」


「良い物じゃない?ってどういう意味です?」


「・・・・・・・そのうち分かる」



 ライゾーはそれだけ言うと、目を伏せてしまった。ライゾーの呟いた『良い物じゃない』という発言が突っかかっていた

 白色の帽子を取り自分の膝を上に置くと、少し気まずくてソッと窓を閉めた。


 窓を閉める前に、クローバー国の王ヨツバ王のいるグリーン・クローバー城があるのがスノーの目に入っていた。

 晴天な青い空が、少し不気味な程に照り輝きながら、グリーン・クローバー城を照らしていた。

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