第21話 エピローグ

気がつくと私は自室のベッドで寝ていて、傍らには母親が座っていた。


 あら、マコト、起きたのね、と母親はのんびり言うと、おじや持って来るわね、と階下に行ってしまった。

 私はただぼんやりと白い天井を眺めた。

 ・・・何だったけ。

美夕から届いていたたくさんのメールや、母親から聞いた話をまとめると、私は電車を降りた途端、その場にしゃがみ込んでしまったと言う。その場は美夕に支えられながらなんとか自宅に帰ったそうだ。

インフルエンザだったらしい。高熱があって、私は一週間学校を休んでいたとの事だった。


 ふうん。そうだったけ。

・ ・・上手い理由を思いついたね。

「魔法って本当にすごいんだな・・」


 ぽつりと呟いた途端、雷に打たれたように、今までの事を思い出した。



 そうだ!! 黄金国は!? セドリックは!? あ、あれは夢だったの!?


 私はがばっとベッドから起き上がった。

でも、証拠なんて何も・・、そうだ、箱、箱だ!!

 慌てて周囲を見回した。ベッド、机の上、床。


「な、ない。やっぱりあれは夢・・」

待って。


確か帰る時、制服に着替えて・・、手には学生鞄を・・。

鞄!?


私は部屋の隅に置かれていた鞄に駆け寄った。急いで開けると・・、


「あったあ!!」


やっぱり夢じゃなかったんだ。セドリック、何をお土産にくれたんだろう。

 これを見る度に、思い出すんだろうな、黄金国での事。皆の事。忘れられるわけがないもの。

 もう既に涙ぐみながら、私は小さな箱を見ていた。



早いもので、あれからもう二ヶ月が立とうとしている。


 私は二年生に進級した。一年生のような緊張感はなくなったし、受験勉強はまだ早いし、お気楽な時期だ。


 明日からうれしいゴールデンウィークに入る。学校から帰る足取りも軽い。


「マコトも来られれば良かったのにねえ 」

 隣を歩く美夕が残念そうな顔をしてこちらを見た。

「うん、ごめん。おばあちゃんちへ行く予定だから・・多分」

「おみやげ買って来るから。遊園地の写真も見せるからね」

「うん、ありがと」


 美夕と別れ、家に帰ると、ダッシュで二階に上がった。


 息を整え、机の引き出しの置くから、小箱を取り出す。


紙の化粧箱を開けると、中からさらに、純金の小さな箱が現れた。


「時の階段」だ。


 セドリックは、これを私に贈ってくれたのだ。

王のみが使える最高の魔法道具。異次元を繋げる扉。


どれだけ、どれだけこの箱を開けたいと日々思ったことだろう。二ヶ月間が本当に長かった。


でも、私は今いる世界にも生きているのだ。ここでの生活もおろそかにしてはいけない。ここもかけがえのない私の世界なのだから。


そうして、もう一つの世界も__。

私は深呼吸をし、早鐘のように鳴る心臓を押さえつけながら、

ゆっくりと、小箱を開けた__。

 

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【エヴリスタコンテスト受賞】救世主(仮)が救世主を探します! 浅野新 @a_rata

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