第12話 赤の国へ
やがて私達を乗せた馬車は青の国の巨大な門を出、しばらく走り、森を抜けると、広大な牧草地帯に出た。
バドが御者台から声をかける。
「この辺一体は黄金国の領土です。地面は、ですよ。ほら、ずっと向こうの空を見てください。空に浮かぶ二つの島が見えますか? あれが赤と白の国の領土です」
私は窓から外を見上げた。
空には確かに大きな二つの島が左右に離れて浮かんでいた。左側は赤土と植物で覆われた島、右側は白い大きな建物幾つも立ち並ぶ島のようだ。
「空に浮かぶ島なんて初めて見ましたわ」
ララが窓に食らい付くようにして見ている。
すごい。私は救世主探しを暫し忘れて見入った。あんな大きな島がどうやって浮かんでいるんだろう。
バドが続ける。
「あの真ん中にある大きな雲をはさんで向かって左が、赤の国。右が白の国です。では昨日言いかけた、二つの国についてお話しましょうか。アレクセイが詳しいですね」
馬に乗ったアレクセイは、馬車の隣に馬をゆっくりと進めた。窓越しに私へ話しかける。
「俺は旅好きだから色々話を聞くんだ。まず一つ忠告しておこう。それぞれの国にあんまり滞在しない方がいいぞ。お互いの国の愚痴や文句ばかり言われて嫌になるからな。せいぜい半日だな。それから、赤の国で白の国の事を話さないように。逆も然りだ。奴ら途端に不機嫌になるからな」
「何でそんなに仲が悪いの? 」
「仲が悪いと言ったって、大規模な争いがあったわけでもないし、今もした事はない。犬猿の仲なんだよ、昔から。お互い空に住む種族でありながら文化や物の考え方があまりに違うから、何となく虫が好かない、というのが一番の理由らしいな」
「たったそれだけの理由で!? 」
「それだけの理由が、両国には大きいらしいな。お互い自国にない物を持っているから嫉妬もあると思う。白の国は技術や科学力が優れているが資源が少ない。自然の豊かな赤の国はその逆さ。両国とも足りない物は黄金国に頼ってはいるが、黄金国だって知っての通り大きな国じゃない。自国の面倒も見なきゃいけないからそんなに支援もできないさ。本当は距離も近い隣国同士が手を結ぶのが一番なのにな」
「そうすればいいじゃないか。じゃあさ、僕がお互いの国に命令したら仲良くするかな? 」
セドリックが苦笑した。
「救世主でもきついんじゃないか? マコトはあの王達を知らないから」
アレクセイが後を続けた。
「特に今の王になってからいがみ合いが顕著なんだ。国は勿論、王同士も全く交流していないらしいからな。国全体の大事な行事や会議には出席するが、いつも険悪なムードだな。王達を見れば両国の雰囲気が分かるぜ。博識で冷静な白の国の王クレイと知識よりも経験を重視する情熱的な赤の国の王ガルディア。正反対だから余計気に食わないらしいな。温厚なテオとはお互い上手くいってるらしいけどな」
「はあ・・・そうなんだ・・」
白と赤。王探しの前に難しい問題が出てきちゃったな。この二つを仲良くさせるのは難しそうだなあ。でもテオと約束しちゃったし。国同士が仲が悪いって言うのも問題があるしなあ。
ララが軽くため息をついた。
「お互い誤解を解かないと益々関係が悪化するだけですのに。わたくしの友達同士がけんかをした時、二人に黙って無理やり引き会わせた事がありましたのよ。結果仲直りしましたわ」
黙って引き合わせる、かあ。
「さあ、皆さんこれからがペガサスの本領発揮。空を飛んで行きますよ。しっかりつかまっていて下さい」
はあっ!とバドが声をかけると、二頭のペガサスは大きく羽を動かし、次の瞬間馬車はふわりと浮かび上がった。
「すごい! 」
後ろを見ると、アレクセイとセドリックのペガサスも、それぞれに彼らを乗せてついてきている。馬車は速度を増しながら、ぐんぐん高度を上げて行った。滑らかに馬車は走っていく。なんか、地面があるようなないような、不思議な感じ!
「マコト、なんだか暑く感じません? 」
しばらくしてララが、レース使いの優雅な扇子を取り出して、ぱたぱた仰ぎ始めた。
確かにそうだ。高いところへ向かっているのに、なんだか気温が上昇しているようだ。
もう赤の国は近いのだろうか。
私が窓から外を見た瞬間。
「ドド、ドラゴンだ! 」
にゅっと一匹の大きなドラゴンの姿が窓に映り、馬車の横をゆっくりと飛んで行った。
「あら、マコト、ドラゴンは初めてですの? 」
ララが不思議そうな顔をしている。
バドには事前に聞いていたけれど。私は口をぽかんと開けて空を悠々と飛ぶドラゴンを見ていた。
そうしている間に、赤の国が見えてきた。外から見た通りの、赤土と植物に囲まれた、緑豊かな所だった。バドが手綱をしぼり、ゆっくりと馬車は速度を落として行く。
「マコト、ララ、到着ですよ。ここが赤の国。人語を話すドラゴン達の国です」
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