第11話 衝撃
私達がこっそり先に城へ帰ってから一時間ほどしてテオ達も帰ってきた。
私を見ると、可愛い三銃士姿のララが詰め寄った。私とセドリックは勿論着替え済だ。
「もう、どうして逃げたんですの、マコト! わたくし、殿方から次から次にお相手を申し込まれて十年分くらい踊りましたのよ! マコトを探すのは疲れて諦めましたわ」
「ごめんごめん。でも、女装なんて恥ずかしくてさ、見られたくなかったんだよ」
「ちらっと見たが、充分可愛かったけどな」
女装姿のアレクセイが微笑む。うわあ、やっぱり美人だ。何かすっかり様になっている気がするのは気のせいかな。
「そう言えば、セドリック! どこにいましたの、全然分かりませんでしたわ! マコトは見ました? 」
頷こうとして、私はララの後ろで顔を赤くしたセドリックが〝絶対言うな! 〟と口をぱくぱくさせているのに気付いた。
「あー、えー、その、分からなかったんだ。でも、バドなら見たよ」
すると、皆一斉にテオの後ろに隠れている彼を振り返り、噴出した。
「やっぱり一番の変身は彼だよな」
アレクセイが腹を抱えて笑う。悪いと思いつつも、私もセドリックやララと一緒に大笑いしてしまった。
「わ、私を見ないでください! すぐに着替えてきます、見ないでくださいったら! 」
バドは慣れないスカートに苦戦しながら、慌てて部屋を飛び出して行く。
テオはそんな彼の様子に笑いをこらえながら、私に向き直った。東洋風美女の姿で彼が微笑む。
「この仮装仮面舞踏会は本当に楽しいですね。大成功ですよ! 堅苦しくない雰囲気が良かったんでしょうね。あんなに国中盛り上がったのは久しぶりです!」
「呼んだ黄金国の友人達も皆楽しんで帰って行ったからな」とアレクセイ。
「まずは成功ですわね」とララもにっこりと笑った。
「皆さんには是非翌日の祝賀会にも出て頂かないと」
と言うテオの申し出に、私は悪いけど、と断った。
「この後赤と白の国も訪問するから、あまりゆっくりもしていられないんだ」
「赤と白の国・・ですか」
テオがあごに手をあて、少し考えるポーズを作った。
「何? もしかして、何か危ない国なの? 」
「いえ、それぞれの国は決してそうではないのですが・・」
「マコト、赤と白の国は、お互い仲が悪いんですよ」
大急ぎで着替えを済ませたバドが戻ってきた。テオが、お願いばかりですみませんが、と私を見つめた。
「両国へ行かれた際には、それぞれの王にお互い仲良くやるようご忠告頂けますか。救世主殿のお言葉なら、王達も素直に聞くと思うのです」
「でも何で仲が悪いの? 」
私達の様子を見ていたララが、ふわあ、と小さく欠伸をした。
「あら、失礼」
テオは壁時計を見上げた。
「これは引き止めてすみません。もう夜も更けていますし、皆さん本日はお休み頂きましょうか」
「テオ殿はお忙しいと思いますから、又赤と白の国の事は私やアレクセイが詳しい事をお話しますよ」
バドが言い、私達はそれぞれ床に着く事にした。
ふーん。赤と白の国の仲たがい、かあ。でもテオがきっと真の王だから、彼が上手に収めていけるよね。
翌日、私達は青の国を去る事にした。
「テオ、ありがとう。滞在中すっかりお世話になって。青の国の人達は本当に気持ちいいし、綺麗な国だし、絶対観光国として成功するよ! 」
そして、立派なあなたが真の王だよ。
私はそう思いながら、にっこり笑って右手を差し出した。
「光栄です、王よ、来て頂いて本当に良かった。貴方はわが国の救世主です!」
テオは両手でがっちりと私の手を握り締めた。
あれ。私は強く握り返したり、両手で彼の手を握り直したりした。テオは「?」マークを浮かべながらも、にこにこと私の手を握っている。
いくら握っても、
彼の手は光らない。
私はその場で凍り付いた。
そんな馬鹿な!!
こんなに国と国民を思う誠実な思いやり深い人なのに、救世主じゃないなんて。
何で、何が駄目なの!?
「王よ、如何なされました? 」
テオの言葉に、はっと我に返る。
「あ、ううん、何でもないんだ」
「赤と白の国の事、お願いいたします」
「うん・・」
この場でただ一人真実を知るバドのみが、真顔で私達の成り行きを見守っていた。
皆がそれぞれにテオに別れを告げるのを見ながら、私の心は揺れていた。
真の王はテオではなかった。あんなに思いやりのある人なのに。王はまず、国民の事を考えてこそだろうに。駄目な理由が私には全く思いつかなかった。これから行く赤と白の国に、彼以上の能力を持った王がいると言う事だろうか。
考え込みながら馬車に乗り込もうとした私に、バドが近付き、そっと声をかけた。
「マコト、焦ってはいけません。のんびりいきましょう」
「うん・・」
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