第18話
橋を歩いて門の入り口に入っていく。
暗い闇の中でたいまつが燃えるように光り輝いている。
その光を頼りに道を歩く。
周りは鎧が置かれた部屋やスライムがいそうなジメジメした部屋があり、モンスターが出そうだ。
扉を開けるたびに心臓がドキドキしている。
「た、武雄なんとか言いなさいよ。この道で合っているの?」
「知らないよ」
「無責任ねぇ」
「先に来たのは千紗だろ? むしろ道を覚えていないのは誰かさんのせいだろ」
「あんた私に文句があるわけ?」
「あるよ。だって道覚えてないから」
「何よ。細かいことを言うわね。あたしだって必死に…」
千紗が言い終わる前に竜のような泣き声が聞こえる。
俺達は立ち止る。
しばらくするとドラゴンが目の前に現れた。
足が震えて動かない。
もうダメだ。
こう言う時ウェインさんがいてくれれば…。
しかしここはジェネなんとかタワーとは違う。
俺達は逃げ出した。
「グギャアアア!!」
ドラゴンが炎を吐く。
俺達の行く先に炎が広がって通行止めになる。
ウェインさんもいないし、最後に千紗を庇って死ぬのも悪くないかもしれない。
俺の中で諦めがついていた。
「ちょっと武雄。何諦めた顔してんのよ!」
「最後にお前を庇って死ぬと決めた。お前は逃げてププリスさんの所に行け」
「何馬鹿な事言っているの。渋谷さんや真日流ちゃん、それに佐波山店長や武雄の両親が悲しむわよ。二人でなんとかしてドラゴンから逃げるのよ」
「現実は無情だよ。お前だけでも助かれ、俺がひきつけるからその間に進め」
「何かっこつけてんのよ。死んじゃったら元も子もないじゃない」
「お前も死んだらそれまでだ。行け! 最後にお前の事好きだったぜ」
「えっ…」
「グギャアア!!」
ドラゴンの口から火炎が出来上がる。
俺は千紗を押して城の入り口側に走った。
「こっちだ。こっちにこい!このトカゲ野郎!」
「そこまでじゃ」
誰かの声が聞こえると同時にドラゴンは火を噴くのを止めた。
見覚えのある声だった。
「ププリスさん!」
「武雄、それに千紗。久しぶりじゃな」
紅い髪のロングヘアーをなびかせて、ププリスさんがドラゴンを止めて、やって来る。
「余の部下が失礼したの。今部屋まで案内するついてくるのじゃ」
良かった、助かったんだ。
安心したら腰が抜ける。
俺と千紗はププリスさんの後ろについて歩いていく。
分かれ道があったりしたので、どこに続いているか気になりププリスさんに聞く。
「左の部屋は何ですか?」
「あそこはトラップが仕掛けられている部屋じゃ。財宝目当てで来る冒険者を撃退してくれるのに役に立つのじゃ」
ドラゴンが吠えて襲いかからなければ間違って左の部屋でトラップにかかって死んでいたと思うとゾッとする。
千紗は前回の宅配でドラゴンに会わなかったのだろうか?
試しに聞いてみる。
「なあ、千紗」
「何よ」
「一度ププリスさんの城に出前で来た時ドラゴンやトラップ、モンスターをどうやって回避してププリスさんに届けたんだ?」
「あ、それはね。ププリスさんが執事を城の入り口の前に配置してくれたから城の中に入らずに済んだの」
「ププリスさん、なんで今日は執事さんが城の前にいなかったんですか?」
「いつも働いているが実家の母親のことが心配らしく一週間の有休を使ったのじゃよ。たから執事が門の入り口の前にいなかったのじゃ」
それじゃあ千紗も城内に入るのは初めてな訳だ。
いや、執事に道案内された可能性が高いんだな。
「千紗、佐波山店長の店で働き始めたのいつだ?」
「えっ、なんでそんなこと聞くの?」
「いいからいつだよ?」
「半年くらいかな、多分」
「半年で道を忘れたのか」
「まさかもう一度来ることになるとは思わなかったのよ」
「モンスターを配置させていた私が悪いのじゃ。千紗を責めてもしょうがないのじゃ」
「まぁ、そうですけど」
「ププリスさんの言う通りよ。武雄、男なんだから細かい事気にしない」
「はいはい、どうせ俺が悪いんでしょ。千紗さんの言う通りですね」
「なんか含みがあるけど、まぁ、いいわ。あんたドラゴンに襲われたときにかっこつけて助けてくれそうだったし、私のこと好きな訳?」
「あ、あれはその場の勢いだぞ。別に惚れてねえし、死んだらデート出来ないからな」
「そういうことにしといてあげるわよ。水族館まだ行ってないしね」
「そういえばそうだな。イルカのショーを一緒に見に行く約束あったしな」
「お前たち二人は仲がいいのう。余も武雄と気軽に話がしたいものじゃ。前世の頃の武雄を思い出してしまうのじゃ」
「武雄の前世ってどういう人物だったんですか?」
千紗が俺の代わりに質問した。
「人と魔物の戦争、人魔大戦の頃に私と共に戦場を駆け抜けた英雄の一人で料理が趣味の変わった魔法剣士じゃった。よく料理を作っては余に食べさせてくれた」
「優しい人なんですね」
「最後は民間人のみんなを戦場から守るために大量の兵士を相手に時間を稼いで死んだのじゃ」
「武雄がその前世なんですよね。前世の人と少し似ている部分があるんですね」
「そうじゃなさっきの余の部下のドラゴンから千沙を守る所は似ているのじゃ」
あのシーン見られてたのか、なんか恥ずかしいな。
でも俺の前世は英雄で似ている部分があるって話は聞いていて半信半疑だ。
というか実感が湧かない。
「本当に俺が前世で英雄だったのか。なんかすごい話だな」
「でも今はただのさえない大学生料理人よね」
「それでも余は武雄の前世が忘れられぬのじゃ」
ププリスさんが切なそうな表情でそういうと俺は申し訳ない気持ちになる。
お互い無言になり、千紗も最初は戸惑っていたが黙って歩く。
※
しばらく歩くと大きな扉が現れ、いかにも魔王が出てきそうな扉に俺は変な緊張感を持つ。
「ここが余の個室なのじゃ。では開けるのじゃ」
ププリスさんが魔法を唱えて扉が自動で開く。
やっぱりセキリュテイー対策はしているのか。
城の門は空けられているのに不用心なのか用心深いのかよく解らない城だと思う。
ドアを開けると周りはぬいぐるみが多い女の子らしい可愛らしい部屋が現れる。
ピンクのシーツのベッドにテディベアが載ってあり、机には多くの資料の紙の山が積まれている。
資料の紙は魔王の仕事なのだろうか?
「なんか予想と違いますね」
「なんじゃ武雄期待しておったのか? 余の部屋が長く赤い絨毯じゅうたんの上に階段があって偉そうな椅子に座っていると思っておったか?」
「ええと、ちょっとだけ期待してたんですが普通の女の子の部屋ですね。俺女の子の部屋ってアニメや漫画、ゲームでしか知りませんが入ったのは初めてです」
「武雄、私の部屋もププリスさんとほとんど同じ部屋よ」
「そうなのか?」
「私がお嬢様学校行っていること忘れたの? これでもお金持ちよ」
「でもププリスさんの方がお金持ちだよな」
「部屋はピンク色でぬいぐるみが多いのが私の部屋よ。だからププリスさんと趣味は同じよ」
「趣味が同じでも性格は別物だけどな」
「何よ! 嫌なこと言う奴ね」
「悪かったよ。もう言わないさ」
「ところでお主たち余に何の用があってきたのじゃ?」
ププリスさんがベッドに座り、俺と千紗を見た。
そうだ目的を言わないとここに来た意味がない。
「実は俺のせいで今俺達の世界が大変なことになっているんです」
「武雄が異世界の食材をププリスさんのいる世界のお客ではなく、私達のいる世界に使ってしまったんです」
「そうなんです。全ての責任は俺にあるんです。佐波山店長から聞きました。ププリスさんに会えば問題は解決するって」
ププリスさんは黙って俺と千紗の言葉を聞く。
会話が終わり、ププリスさんは黙り込んで座っている。
どうなんだろう? やっぱり駄目なのか?
ププリスさんが俺を見つめて意地悪そうな顔で口を開く。
「そういうことか、わかったのじゃ。余が武雄達の世界の人々を止めてやろうではないか」
「で、出来るんですか?」
「武雄。ププリスさんはね、何度も言うけど人の記憶を消すことが出来るのよ」
ププリスさんは人差し指を俺に向ける。
「記憶を今から消す前に条件があるのじゃ。武雄お主の作る料理で余を満足させるのじゃ」
「えっ…俺の料理ですか?」
「もしマズければ記憶を消したのを元に戻す」
「えっ! それだけは止めてくださいよ」
「その条件でなければ余は協力してやらんのじゃ」
困ったことになったぞ。
でもこのままだと他に方法がないし、従うしかないか。
佐波山中華店が潰れれば俺の生活も出来ない。
料理で納得させるしかないだろう。
というかクビになってもおかしくないから最後の料理になりそうだ。
親父になんて言えばいいんだろう?
まぁ後から考えよう。
今は俺のせいで世界中に異世界のことがバレてしまっている。
もしかしたら以前にもこんなことがあったのかもしれない。
渋谷さんに聞いておけばよかったが、俺がやったことは信用を失うことをしている。
「わかりました。ププリスさんの満足できる料理を出します」
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