第16話
ププリスさんの前世の俺はかなり酷い死に方をして別れたんだと、寝る前にふと思った。
※
千紗とのデートの日になった。
電話で千紗に連絡して遊園地に行くことになった。
遊園地か。
千紗が言ってきたので動物園から遊園地に変更されたのだ。
駅前で10分ほど待って、スマホでブラウザゲームをしていると肩を叩かれ誰だと思って見たら千紗だった。
私服はキレカジ系の服装で似合っていた。
俺達は電車でゲームの話をしながら遊園地のある駅に降りる。
遊園地はたくさんの人がいて、チケットを購入して人込みの中に並んで入る。
遊園地の中に入ると大きな船が振り子のように揺られているアトラクションやジェットコースターに乗って悲鳴を上げている光景があった。
近くにぬいぐるみが風船を子供に配ったり、アイスクリーム屋でカップルらしき人がいちゃついていたりしている。
騒がしいのは苦手だが千紗は楽しそうに俺の横でテンションを上げている。
「武雄。最初にジェットコースター乗ろうよ」
「いいけど、俺ああいうの苦手なんだよ。連続で乗るとか言うなよな」
「わかった一回だけね。終わったらゴーカートで勝負しましょ」
「勝負って…楽しくのんびり走れば良いんじゃないか?」
「遊びで本気にならない男はダメダメよ」
「そこまで言うなら先にゴーカートで勝負するか?」
「いやそれはそれ、これはこれでジェットコースターを最初に乗るべきだわ」
千紗に言われた通りジェットコースターに並んで一番前に乗る。
レールの方向にジェットコースターが動いて徐々に上に上がっていく。
「武雄。ビビっているでしょ?」
「千紗こそ無理すんなよ。横で叫んでいる様子を観察するぜ」
「そんな余裕があるのかしらね。あ、頂上についたわよ」
ジェットコースターでこの後2人で叫んで引き分けになった。
千紗はガクガクと降りた後に足が震えている。
俺も歩くのが微妙に揺れている。
「つ、次はゴーカートで勝負よ」
「無理すんなよ。アイスクリーム買ってテーブルに座って落ち着こうぜ」
「わかった。そうするわ」
千紗は席を確保して、俺はアイスクリームのバニラを2つ店員に頼む。
こうして一緒にいるとデートしているみたいだな。
いや、子供につきそう保護者って感じか?
そんな事を考えながらソフトクリームのバニラを2つ持って千紗のいる席に移動する。
「ほれ、アイス持ってきたぞ」
「ありがと」
千紗にアイスを1つ渡して2人で食べる。
「ねぇ武雄。ゴーカート乗ったら次何にする?」
「うーんそうだな。できれば安全でかつエキサイト出来る乗り物がいいな」
「じゃあコーヒーカップ乗ろうよ」
「そうだな、そのあとミラーハウスに入って、お化けをガンで撃ち落とすアトラクションをやろう」
「武雄。結構楽しいと思っているでしょ?」
「まあな。意外と千紗は表情豊かなんだなって思うよ」
「と、突然何言っているのよ」
「いや、普通に可愛いと思ってな」
「えっ、今なんて言ったの?」
「最後は観覧車にしようぜって言ったんだよ」
「ふーん、本当はビール飲んで肉とか食べたいとか親父臭いこと考えてんじゃないの?」
「それもいいかもな」
俺達はアイスを食べ終わり、ゴーカートで勝負することにした。
※
一通り乗り物やアトラクションを楽しんだら観覧車に乗って夕日の街並みを高い所から見る。
今日は楽しかったが疲れた。
「ねぇ武雄」
「何だ?」
「アルバイト少しは慣れた?」
「仕事のことくらい今日は忘れようぜ」
「そうだね。でも私のせいでもしかしたら苦労しているのかなって思って」
「考えすぎだぞ。むしろお前がいると安心する」
「えっ? そうなの?」
「最初は遠くから見るだけだったのに今は凄く近い所にいる。それだけでもアルバイトして良かったかもしれないと思うことがある」
「私ってそんな魅力的?」
「どうだろうな。俺の前世がププリスさんの恋人だった話信じるなら千紗は俺のそばにいなくなると思う」
「私今もしかして告られているの?」
「まあ、彼女いない歴イコール年齢の俺がいうのもなんだけどね」
「また休みが出来たらデートしようよ。次は動物園がいいな。キリンとかパンダ見てみたいし」
「パンダは見ててもつまらないぞ。電車で寝ているおっさんにしか見えない」
「あはははははっ!面白い事言うんだね。確かにそうだけど見ると和まない?」
「いやイルカのショーの方がまだ見れる」
「あ、それなら今度のデート場所は隣町の水族館にする? ペンギンとか大きな蟹とか見てみたい」
「そうだな」
デートは終わり明日はアルバイトだ。
千紗はまた忙しいと口が悪くなるんだろうなっと思った。
※
いつものようにアルバイトで入る裏口に行くと千紗がゲートの機械をいじっていた。
「何やっているんだよ?」
「見て解らないの? 佐波山店長に頼まれてゲートの装置の点検を行っているのよ」
「そういえばゲートから来る客が帰る時やゲートに入るときは場所どうなっているんだ?」
「お客がこの機械で帰りたい場所を設定して、その場所に帰るの。異世界のゲートは客がその場所に着いたら消えるわ。逆にはいる時はいつも同じ遺跡の穴にゲートの穴が開いているわよ」
千紗はそう言って機械をいじっている。
「ふーん。それで千紗はそのゲートを設定する機械に何しているんだ?」
「バグが出て違う場所に飛ばないように直しているのよ。電池が古くなってしまった時の為にあらかじめ充電していた電池に取り換えるの」
「電池で動くのか、それに充電器なんてあったんだ」
魔法使いの作った装置なのにやけに機械じみているな。
「充電器は裏口の目立たない所に設置してあるわ」
「そうなのか」
「武雄。ここでボッーと立っていると佐波山店長に怒られるわよ」
「へいへい、行ってきますよ」
裏口のドアを開けてよそ見をしていると、足を引っかけて後ろに転んで千紗とぶつかった。
「うおっ!」
「きゃ!」
千紗を押し倒した。
顔が胸に当たる。
ふにふにと柔らかい感触と温かさがあった。
「武雄、何してんの?」
つい、胸を揉んでみた。
柔らかかった。
「ちょっと武雄!」
「す、すいません」
「離れて欲しいんですけど」
俺は言われるがままに起き上がり、千紗ちゃんから離れた。
「武雄」
「すいません、つい」
「ついでこんな目に遭ったらお父さんを呼ぶわよ」
俺はヤクザのリーダー的な存在を想像して、ゾッとした。
千紗の家は金持ちだからヤクザに違いないと先入観がでた。
「ごめん、千紗。俺のせいでこんなことに」
「もういい」
「何かあったのですか?」
裏口の開きっぱなしのドアから制服姿の真日流ちゃんが出てきた。
千紗が嫌そうな顔をして、真日流ちゃんはキョトンとした表情で俺を見ていた。
「いや、千紗とぶつかったんだ」
「私にも非があったけど、その時に胸を揉まれたわ」
途端に真日流ちゃんの顔が嫌悪の表情に変わった。
「武雄さん。変態ですの?」
「すまん。でも、謝ったから許してくれたよ」
「許すのは今回だけよ、私にも非があったのは確かだし、でもこういうことをすると嫌われるわよ」
千紗はそう言って裏口のドアを入って、充電器から電池を取り出した。
真日流ちゃんがドン引き気味な表情で俺を見ていた。
「武雄さんってスケベな方でしたのね」
「もうしないから大丈夫だ。信用してくれるわけないよな?」
「………」
「ですよねー」
「武雄君来たなら厨房に来てほしいアル」
千紗と真日流ちゃんを説得する前に佐波山店長に呼ばれた。
「武雄君、何かあったアルか?」
「い、いえ特に何もないです」
後ろを見ると二人で話し込んでいた。
※
ゴブリンの肉入り炒飯を初めて作ることになった。
長ネギとひまわりの香りのする抹茶色のゴブリンの肉とピンク色のベーコンを台の上に置いた。
包丁で長ネギを千切りにしボウルの上に移動させ、同じく緑色のゴブリンの肉を刻んでフライパンの上に移動させる。
最後にベーコンを刻んでボウルの上に移動させる。
下準備に時間をかけすぎるわけにもいかない、ちょっと急がなければマズいな。
卵を溶いて、といた卵を卵かけご飯の要領で、ご飯の上に垂らしていく、徐々に黄色に染まる。
よし、あとは他の炒め物とほとんど変わらないから大丈夫、何とかなりそうだ。
先ずはフライパンに油を引き、次に醤油、塩、胡椒、鶏ガラスープと続けて入れていく、パチパチと油の音を立て、最後に具を入れてフライパンで炒める。
フライパンから一気に火柱が立つ、全体に焦げ目が付き、具に火が通ったら、一回取り出す。
焦げすぎてないよな? 大丈夫か。
黄色の卵かけご飯をフライパンに投入し、何回か混ぜ、パチパチと油の音を立てて炒める。
焼けた野菜と肉がフライパンの上から臭ってくる。
初めて作ったけど、これはほぼ完成って言っても良いんじゃないか? うん、うまそうだ。
ゴブリンの肉の色が焦げ茶色になったら、おたまで返して混ぜる。
取り出した具を入れて、焦げ茶色の肉と黄色のお米のゴブリン炒飯が完成する。
初めて出来たにしては、よく出来てる。しかも、時間通りきっかりである。こうしてみるとちゃんとした炒飯だ。見た目、普通の店で出しているのと変わらないし、臭いもそれっぽいぞ。初回からこれとか、俺は天才なんじゃないだろうか?
いや、やっぱり俺は料理の天才だ。
その証拠にこのメニューは自信をもって客に出せる。
見ているだけで美味そうなゴブリン炒飯だ。
ピリピリするような辛そうな臭いで充満する。
千紗に直接渡すとムスッとした顔で何か言いたげに俺を見る。
「まだ怒ってんのか? 悪いって言ったじゃないか」
「それはそうだけど納得できない部分があるのよ。あんたの日頃のクズっぷりに」
「失礼な奴だな。俺のどこがクズなんだよ」
「自分で解んないからタチが悪いわね。なんでこんな男に私は…」
「なんだよ? 早くメニュー運べよ。ゴブリン炒飯冷めちゃうだろ」
「はいはいはいはい。わかりましたよ。運びますからね」
あの様子だと閉店まであんな調子だろう。
渋谷さんが肩を組んで来た。
「武雄。何かしたのか?」
「実は…」
俺は渋谷さんに今日起きたことを説明した。
「そりゃ9割方お前が悪い」
呆れた表情で渋谷さんは頭を手でかきながらそう言った。
「なんとかなりませんかね?」
「そっとしておいて賄いでも作ってあげるのが一番だぜ」
「アイスクリームで喜んでくれるかな?」
「中華料理はどこに行ったんだ?」
千紗が厨房にやってきてオーダーを言った。
「ドラゴン炒めとオーク炒めお願いします」
「えーと、千紗。今いいかな?」
「な、何よ、武雄。またエッチいことする気?」
「いや、そうじゃなくてさ。帰りにアイスクリーム奢るからさっきのこと許して下さい」
「餌付け?」
「頼む」
腕を組み嫌そうな顔をする千紗に、俺は頭を下げてお願いした。
「まぁ、別に反省しているなら許してあげなくもないわよ。アイスクリームで手を打ってあげる」
「本当に?」
「もちろんよ」
俺は安堵して、料理に集中した。
※
次の日はいつもより大学の時間が遅くなり、俺は慌てて佐波山中華店に向かったが、努力敵わず結局遅刻になった。
慌てて厨房に向かうと、腕を組んだ佐波山店長に会って怒られる。
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