第14話
冷蔵庫からアイスクリームを一つ取り出して食べると千紗も俺を見て冷蔵庫からアイスクリームを一つ取り出した。
「あんまりアイスばかり食べると太るぞ」
「そういう武雄は太ってもいいの?」
「男が太ってもたいして気にならないから大丈夫だ。女は太ると男が寄り付かなくなる」
「ひ、一つくらいで太らないわよ」
「それはどーだかなぁ」
俺はアイスを食べて味を堪能し、戸惑う千沙はアイスを冷蔵庫に戻した。
「偉いぞ千紗」
「武雄はずるいわね」
千紗はそういうと帰っていった。
「あらあら千紗ちゃん顔真っ赤にして帰っていきましたよ」
真日流ちゃんが制服に着替えて俺のそばに近寄った。
良い匂いがした。
「悩める女子の葛藤かな」
「どういう意味ですの?」
「こっちの話です」
「そういえば真日流ちゃんの家ってお金持ちでこの店を建てたって聞いたんですけど本当ですか?」
「はい、お父様が海外で水産系の実業家として活動していて、お母様は建築会社の社長をしていますの」
「へー、千紗も凄いけど真日流ちゃんはもっと凄かったのか」
「千紗ちゃんとは同じ学校ですし、凄いとは思いませんわ」
「でも2人ともお嬢様学校でしょ?」
「そうですわね。あと自衛隊の空軍パイロットをしている姉がいますわ」
そんな凄い人が身近にいるってなんか自分が酷く場違いな感じがするな。
でも佐波山店長にお金を貸したってことは実質この店で一番偉いのは真日流ちゃんになるのかな。
「そういえば真日流ちゃんだけ来るのが遅いよね。何してんの?」
「部活をやっておりますの」
「へぇ、大変だね。何部? 俺は中学から高校まで調理部だよ」
「弓道部ですわ。武雄さんも千紗ちゃんにそう言う風に話せば仲良くなりますわ」
「あっ、心配してたんだ。なんか悪いね」
「いえいえ、武雄さんの事は千紗ちゃんに言っておきますね」
「えっ、調理部ってこと?」
「はい」
やっぱり千紗からは言いにくい質問もあるのかな?
いや考えすぎだな。
「千紗ちゃんとは同じ学校ですし、武雄さんのことも話題に出るのですわ」
「そうなんだ」
どうせ変態男だとかちょっと料理の上手い奴とかそう言う事言われているんだろうな。
「そういえばこの店って魔法使いの人が協力して異世界のゲートを作ったんですよね?」
「ええ。異世界の人がこっちの世界に来ると弱くなる魔法がかけられているのですわ」
「魔法使いなんて最初信じました?」
「ええ、もちろん信じましたわ」
「………」
マジかよ。信じちゃうわけ。
天然ってレベルじゃないぞ。
「どうかなさいました?」
「い、いえ別になんでもないです。そろそろ帰りますね。それじゃ」
「はい。また今度」
そう言って俺達は別れた。
俺は着替え室に行き、着替えて真日流ちゃんは裏口のドアを開けて帰っていった。
※
大学の講義を終えて中華店に向かう途中でこの前会った女の子に出会った。
ププリスなんとかさんだ。
「おお、この前の武雄ではないか。お前を待っていたのじゃ」
「どうして俺の名前知っているんですか?」
「お前が余の前世の恋人の転生体だからじゃ」
「それだけじゃ理由になりませんよ」
「佐波山中華店の常連客だということは教えといてやるかの」
「千紗から、いえウェイトレスの人から聞きました。この前は失礼なことしてすいませんでした。それといつもご利用いただきありがとうございます。」
前世の恋人の転生体って言われても信じられないな。
俺とププリスなんとかさんは一緒に中華店に向かって歩く。
「なんでついてくるんですか?」
「余も今腹が空いて佐波山中華店の人間用の料理が食べたいという興味が尽きないからじゃ」
「そうですか。異世界の客なら時間外は来ちゃ駄目ですよ」
「余は特別待遇だからいいのじゃ」
千紗の言う通り一番偉いお客様なんだろうな。
まぁ、俺が佐波山中華店に来て日が浅いのもあるだろうし、許してくれるかな。
でもこの人にも料理を作って食べさせるわけだからマズかったら店が終わるかもしれない。
そう思うと少し体が緊張した。
「どうしたのじゃ?」
「いえ、あの、ププリスさんって偉い人なんですか?」
周りは偉いと言っているが実際のところどうなんだろう?
そんな疑問から質問する。
俺の問いにププリスさんは間を置いて話した。
「もちろんじゃ。この英雄ププリス・ルドルフ・フォン・ド・ブラキラスは人と魔物が戦った人魔大戦で活躍した英雄になったのじゃ」
「そうなんですか。凄いですね」
やばい、やっぱり滅茶苦茶偉い人だ。
「店の料理が不味ければ一軍を率いて店を潰しに行くのじゃ」
「それは困ります」
「人と魔の人魔大戦の時に死に別れた初恋の人間の青年がいたが戦いで死んだことを知らされたのじゃ」
突然話を変えて俺の前世(?)の最期の話を聞かされる。
ププリスさんは顔にこそでないが、悲しそな声でそんなことを言っていた。
だが、いくら前世の恋人と言われても俺は知らないし、他人でしかない。
「それは悲しいですね」
「その死んだ青年が転生したのが武雄。お主なのじゃ」
だが本当に信じていいのだろうか?
怪しすぎるし、だいたい前世の転生体っていうのが嘘くさい。
渋谷で若者が女相手に俺達と意見交換会しなーい? って言ってナンパするくらい怪しい。
紅い髪をなびかせてププリスさんは楽し気に会話を続ける。
「余は佐波山中華店のお得意様なのじゃぞ」
「それもスタッフの方から聞きました。いつも当店をご利用いただきありがとうございます」
「いう事はそれだけなのか?」
「はい?」
「お主は余にとって特別な存在なのじゃ。もっと話がしたい」
「前世の記憶が俺にないんじゃ意味ないですよ」
「むう、それもそうかの」
俺とププリスさんは一緒に歩きながら佐波山中華店に着いた。
「時にお主、特製メニューを作ることになったようじゃの」
「どこでそれを?」
「昨日佐波山に聞いたのじゃ」
俺が働いている間にもう佐波山店長と話していたのか。
というか昨日来ていたのか。
知らない間に店に来ていたとはちょっと不覚だった。
一番偉いだけあって自由な人なんだな。
「お主の特製メニュー楽しみにしておるぞ」
「頼むんですか? 俺の作る特製メニュー。でも今日は時間外ですから異世界の人はダメですよ」
「余だけは特別じゃ。佐波山店長も納得するじゃろう」
マジかよ。まだ練習中で異世界のお客にも見せてないのに…。
特製メニューをププリスさんに披露しなきゃならないのか。
「どうした? 緊張して作れないとは申さぬの?」
「やりますよ。泥船に乗ったつもりで待ってて下さい」
「それを言うなら大船じゃ。では余は店に入るから裏口に行って準備してくるのじゃ」
ププリスさんにそう言われて、俺は裏口にププリスさんは店の入り口に入っていった。
※
厨房に入ると千紗がオーダーを持ってきた。
「武雄。今日は異世界の客がいない日だけど特別なお客様がいるから特製メニュー作ってね」
「ププリスさんって人から?」
「そうよ。知り合いだったのね。なら話が早いわね。特製メニュー急いで作ってね」
俺は渋谷さん達との特製メニューの練習で作ったワーウルフの肉入り餃子と異世界の野菜たっぷりの豚肉入り炒めを作ることにした。
キャベツ、ニラ、青ネギを小さく切って塩を全体的にかけてまぶす。
餃子のタレを作って、ワーウルフの肉を塩胡椒と調味料を混ぜた。
餃子の皮の上にワーウルフの肉を野菜を一緒に入れて馴染むまで混ぜる。
餃子の皮にそれらの具をのぜ、水分をある程度つけて包み込む。
それを6個作るとごま油を全体に塗ったフライパンに餃子を円を描くように並べて火をつける。
フライパンに水100ccを全体に回しかけ、すぐに蓋をして水がなくなるまで待つ。
蓋を外して水分が完全になくなり、焼き色をつけた面がカラッときつね色にするまで焼いた。
水分がなくなると焦げやすくなるから、焦げ目がついたら反対側に焼く。
フライパンを揺すって餃子がくっつかないように注意し、皿にのせる。
これでワーウルフの肉餃子は完成だ。
真日流ちゃんに餃子ののった皿を渡し、次に異世界の野菜と豚肉の炒め物を作る。
その間に餃子を焼いていた時に行った異世界のキャベツなどの野菜を刻むと塩胡椒をかけて、馴染ませるとフライパンに入れて焼く。
豚肉をあらかじめ細切りにしたトレーを冷蔵庫から取り出して唐辛子の調味料を混ぜてフライパンに載せる。
それらを強火で炒めて肉に焦げ目がつくくらい炒める。
豚肉炒めはこれで完成なので皿にのせて、千紗に渡す。
客のテーブルから厨房にププリスさんが入って来た。
緊張が走る。
料理が不味かったのだろうか?
もしかしてクレームだろうか?
そんなことを考えているとププリスさんから間を置いて話し始めた。
「二つとも良い味じゃ。武雄お主前世の時と同じくらい料理が上手いようじゃの」
「あ、ありがとうございます」
なんだ褒めてくれたのか。
というか俺の前世の人物も料理が得意だったのか。
「お主料理はどこで、というかいつ頃から習い始めたのじゃ?」
「中学の調理部に入部した時に本格的に習い始めました。最初はクッキーとかですけど、だんだん卵料理や和食や洋食、中華料理を覚えて高校に上がる頃は一通り料理は覚えてました」
「ふむそうか。今日はこれで帰る。また楽しみにしているのじゃ」
そう言った後でププリスさんは俺の目を覗き込むように見た。
「何ですか?」
「お主に魔法をかけてやろう」
「何の魔法ですか?」
「お主の転生体の記憶、つまり前世の記憶を夢にする魔法じゃ」
ププリスさんは呪文を唱えて、周りに紫色の魔法陣らしきものが現れて俺の体の中に入っていった。
「これで前世の人魔大戦の記憶が蘇るじゃろう」
そう言ってププリスさんは裏口に移動した。
おそらくゲートをくぐってププリスさんの生まれた世界に戻るのだろう。
「流石武雄君アル。もう特製メニューでお得意様のププリスさんを満足させたアルね」
佐波山店長が気がついたら後ろにいてそんなことを言い出した。
特製メニューは完璧にこなしたってことだよな?
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