第13話

「なんだよ、がっかり女子高生。偉そうに言うなよ」


「誰ががっかり女子高生よ。変態大学生」


「変態じゃない」


「お前ら喧嘩はここでは禁止だぜ。他所でやるんだぜ」


 渋谷さんが止めに入って、千紗はそのまま後ろを振り向いて歩きだした。


「帰りの挨拶も無しかよ」


「お・つ・か・れ・さ・ま・で・し・た」


「仲良くなったかと思ったのに嫌な奴だなー」


 千紗は前の時は違う態度で帰っていった。

 仕事が入ると口調が変わるんだろうか、余裕がないんだろうな。


「武雄着替えてお前も帰るんだぜ」


「わかりました」


 俺は着替え室に行って服に着替える

 普段着に着替えてドアを開けると真日流ちゃんと出会った。


「あら武雄さん、おかえりですか?」


「はい」


「なんだかまだ緊張なされているようですね」


「ええ、スタッフと上手くいっているわけではないんで…」


 渋谷さん以外の調理スタッフが喋らないし、こっちの相手もしてくれないからちょっとそこがイライラしてしまう。


「そうですか。私には上手くいっているように見えますよ」


 真日流ちゃんはそう言って、女子用の着替え室に行った。


(この子とも上手くいっているのやら…気を遣わせて話している感じがするんだよなぁ)


 俺はそう思って、佐波山店長に一言挨拶して家に帰った。

 明日も頑張るアルっと言われて苦笑いした。



 次のバイトの日。

 俺は大学の授業を受けながら、バイトについて考えていた。

 このまま続けてもきついが、親父が出世して収入増えて仕送り送って欲しいがそんなご都合主義な夢物語は絶望的だろう。

 でも千紗のことが気になって、バイトを辞めるのも損な気がした。

 講義を受けて、終わるとバイト先に向かった。

 バイトへの道の途中で140センチほどの女の子に話しかけられた。


「久しぶりじゃな」


「誰ですか?」


 スルーするのも何か悪い気がしたので立ち止って聞いた。


「そうかまだ気づいていないのか。いずれ解ることじゃろう」


「あなたは誰ですか?」


 俺は紅い髪の女の子に聞くと悲しそうな表情をして答えた。


「お前の前世が余の恋人じゃ。といってもいきなり唐突過ぎて訳がわからんだろうがの」


 は? だから何それ? 意味がわからない。

 いきなり恋人宣言されたぞ。

 逆ナンか?

 宗教とかに入っている人じゃないよな?

 前世がどうとか言っている人ってオカルト雑誌ヌーとかの影響受けているんだろうか?

 でも見た目は異世界のお客だ。


「どういうことでしょうか?」


「いずれ解ることじゃ」


 新手の詐欺だろうか?

 まだむこうの世界の事も詳しくないし、今日は異世界のお客が来ない日だし、なんで異世界の客が佐波山中華店の店の辺りをうろついているんだろう?

 もしかして昨日と同じ特別なお客なのか?


「あの名前は?」


「ププリス・ルドルフ・フォン・ド・ブラキラスと言う名じゃ」


「長いですね」


 どっかで聞いたことある名前だ。

 えーと、どこで聞いたんだっけ?

 あれ? 知っているような気がする。

 この人もしかして異世界から来たお客さんだろうか?

 にしても長い名前だ。


「ププリスさんでいいのじゃ」


「そうですか、ではププリスさん。俺バイトあるんで」


 異世界のお客とはいえ、きっと電波な女性なのだろう。

 転生前とか意味わからないし。


「待つのじゃ」


「今後とも佐波山中華店をよろしくお願いします」


 俺は早足でその場を去った。

 外で異世界のお客と関わるのはマズい。

 俺が変な人と知り合いってことがこの街で噂が流れるのは避けたい。

 佐波山中華店の裏口に着くと俺は着替え室について着替えた。

 今日も料理が始まる。

 そう思って中華店に着くと制服姿の千紗を見かけた。


「よう、千紗」


「あっ、武雄じゃない」


「なぁ千紗」


「何よ」


「さっき異世界のお客が中華店をウロウロしているんだけど、今日って異世界のお客来ない日だよな?」


「ああ、もしかしてププリスさんのこと言っているの?」


「知っているのか、千紗」


「このお店の異世界のお客のトラブル対処係をププリスさんはしているのよ。お客がお店を壊した時とかはププリスさんが異世界の人に制裁を与えるのが主な仕事よ」


「それって異世界の中で一番偉い人とか?」


「ププリスさんは魔物と人間の戦争で勝って英雄と呼ばれた人なのよ」


「そんな凄い人だったんだ。失礼なことしちゃったな」


「武雄。何かププリスさんにしたの?」


「いや大したことじゃないから気にしないでくれ」


「異世界のお客で一番偉い人だから丁寧に対応するのよ」


「ああ、わかったよ。そう言えば一緒に店に入るの初めてだな」


「何それ? 口説こうとしてんの?」


「別にしてねーよ」


「変なことすると殴るわよ。私これでも空手習っているんだからね」


「マジかよ。すごいな」


「だから変な事したら鉄拳が飛ぶと思いなさい」


「はいはい、わかりましたよ」


「それと…」


「何だよ?」


「空手凄いなって言われたの初めてだから、その…」


「はっきりしろよ」


「何でもないわよ、バカ」


 千紗はそう言って、裏口のドアを開けて中に入っていった。

 もしかして喜んでいたのだろうか?


「まぁ、いいか別に」


 俺も千紗に続いて裏口のドアを開けて、中に入っていった。

 着替え室に入り、料理服に着替えて緊張するも厨房に向かった。



 俺は通常のメニューを渋谷さんに教えられながら作っていた。

 渋谷さんは教え方が上手く、俺は次々に料理をマスターしていった。

 千紗とはメニューを渡すときに2、3会話をする程度の関係だった。

 変態扱いでも、一応は対等に話してくれるようだ。

 普通の話題ばかりで仲良くなっているのかいないのか微妙だ。


「武雄。今時間あるアルか?」


「何ですか店長」


「今後武雄の作る特製メニューを出そうかと思っているアル」


「特製メニューですか?俺の腕じゃ無理ですよ」


「異世界の時間にやるアルよ」


「それは良い案だぜ」


 黙って聞いてた渋谷さんがそう言った。

 何を考えているんだろう?

 俺に特製メニューなんか作れる自信もないのに。

 ただ一般客への料理は異世界のお客と違って襲ったり入り込んだりしないから気楽だ。


「例えばゴブリン炒めなどのモンスターの炒め物を武雄君が隠味を入れて作るアルよ」


「特製メニューで隠し味を入れてお客様に食べさせる。それだけでいいんでしょうか?」


「大丈夫だぜ。価格は他と変わらない程度でやるのが一番だぜ」


「さっそくメニューリストに入れておくアル」


 その場の流れで特製メニューを作ることになった。

 空いた時間で渋谷さんと佐波山店長が料理の指示を出し、客のいない閉店の時間で真日流ちゃんと千紗が試食して評価を出すことになった。

 特製メニューは隠し味にリンゴや蜂蜜を使って調理した。



「悪く無い味ね。武雄にしては上出来じゃない」


 千紗がそう言って俺の作った特製メニューの醤油漬けゴブリン炒めを完食した。


「まあ俺もやれば出来るからな」


「武雄さんは料理の天才ですわ」


「よしてくれよ。真日流ちゃん」


「そうよ。武雄はちょっとだけ料理のセンスがあるだけなんだから、褒めなくていいのよ」


「お前なぁ!」


「落ち着くんだぜ。武雄」


 渋谷さんが止めて、特製メニューの料理の審査は終わった。


「武雄君、渋谷君そろそろメニューのラッシュの時間アル。急いで厨房に戻るアルね。それと真日流ちゃんと千紗ちゃんもお客にオーダーをお願いするアル」


 佐波山店長にそう言われて、達は持ち場に戻った。

 食べ終わったメニューの皿は食器洗い担当の人に回した。



 なんで人はこんなに食欲旺盛なのだろうか?

 そう考えるほどメニューが多いし、作る料理も多い。

 この日は休む間もなく一日を終えた。

 クタクタになった俺は佐波山店長から作られたチンジャ―ロースを食べて少しだけ元気になった。

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